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君と群青。

君を追いかけていた。群青の空を眺めている、近くて遠い君を。

夜の歩道橋、遠くには煌びやかな街のネオン。そっと手を伸ばしても、この手は届かない。手すりから身を乗り出して、道ゆく車をただ眺めていた。

知る限りでは君は甘党で、苦いコーヒーも缶ビールも好きじゃない。飲んでいるのは決まって糖分の塊の炭酸飲料か、アルコールといえば缶酎ハイ。
一緒に出かけたある日、適当に通りかかったカフェで甘いケーキと甘いジュースを飲みながら微睡む昼下がり。君は眠そうに目を擦りながら、窓際のテラス席から広がる街の景色を眺めていて。
「退屈だよねえ、」
なんてポツリと呟く君の瞳に映った群青が目に焼き付いている。もしこの時カメラを持っていたのならすかさず撮っていただろう。

君の生き方はどこか滑稽で、不恰好。少し自分を卑下しすぎやしないか、とか結局言えないままなんだけど。
それでも、君は形が不揃いなビー玉のようで、美しいとさえ思った。そう、あの群青の空のように自由で、すぐにでも羽ばたいていってしまいそう。

歩道橋から眺めた街は冬の冷たい空気にさらされて、群青に沈んでいた。
手を繋ごうか、寒いのは嫌だろう。ポケットに手を入れてもいい。
このまま、永遠に時が止まってしまえば、君を手に入れることができるのに、それは神様でも許してはくれない。

甘すぎて氷で溶かしたカクテルは、味気なくなっていた。飲みきるまでと駄々をこねて、延々と時計の針が進む。
君は飲めもしないウイスキーを、同じように氷で溶かしていた。そして同じように、飲みきるまでと駄々をこねていた。

少しずつ少しずつ、背伸びをして。もしかしたら気持ちは同じだったのかもしれない。

隣に君はいない。あの群青を映した瞳も向けられることはない。暗い部屋で一人、君を思っていた。今日もまた、群青色の夜に沈みながら僕は君の面影を追いかけている。

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