天才になりたかった話。

私はずっと、”天才”に憧れていた。
何の努力もなしにさらっと色々な物事が出来てしまう彼らにいつも憧れていた。
私ががむしゃらに頑張っても達成できないことをさらっとやってのけてしまう彼らが憎かった。
尊敬と憎悪と嫉妬。それらでいつも心は満たされていた。


小学校の時、ふと物語を書き始めた。
元々妄想の世界で遊ぶのは得意だったし、実在の人物に架空の設定を付けて遊ぶことの延長だった。
書き終えたそれを褒められた。
私の物書き人生はそこからスタートした。

拙い文章も書き続ければ少しはましになるもので。
褒められる快感と承認欲求を忘れられなかった私は色々な人へ作品を見せていた。
その中で、憎しみや怒りを織り交ぜた作品を書いてしまったことがあった。
クラスの人が読めば誰をモチーフに書いているか、一発で分かってしまうようなもの。
内緒だよ、と言いながらも書き記した黒い感情を誰かに共有したかったのだと思う。
モチーフにされた彼女は、物語の中で酷く貶められ、残酷な結末を迎える。
分別がついているようで、純粋なる悪意を秘めている小学生であったクラスメイト達は彼女を仲間はずれにした。
『あぁ、私のせいだ』と思いつつも、嫌がらせをしていた彼女がいい気味だと思った。
私は言葉の持つ悪意と怖さを初めて知った。

高校に入って、私は天才と出会った。
一般的に言えば凡才だったかもしれない。
でも、ある程度の才はあると思っていた自信をポッキリ折るには十分だった。
表現の一つ一つ、描写の細やかさ、筆の速さ、想像力の豊かさ。
何か1つとして勝てない、と悟った。
その頃の私が書くものといえば、自分の理想を投影したもの、心の底の暗く重たい闇を吐き出す自慰行為に近い小説ばかり。
こんなもの、誰が読みたがるのだろう。
疑問と葛藤と嫉妬を抱えて書き続けていた。
しかし、高校を卒業すると同時に筆は折った。


ずっと、ずっと、”天才”になりたかった。
誰にもない才能が欲しかった。
親が敷いたレールを歩いていく未来が決まっていた自分が、”特別”だと信じたかった。
そんな夢も弾けて飛んで行った。

あの日、私の夢を折っていった彼らはまだ”天才”でいてくれているだろうか。
忙しい中でも、ふと妄想や空想を書き出して私を負け続けさせてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?