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父の肖像 ファミリーコンピューター

うちの父は高齢だった。頭の血管が切れていたから、あんまり喋れなかった。
親子の会話はもっぱら、ファミコンの画面越しだった。

ファミコンと父

幼児の朝は早い。目が覚めると幼稚園へ向かう。隣の家には黒塗りの車が止まっており、金髪に黒のスーツでキメた若い兄ちゃんがお迎えに来ている。
母親が「あいさつしなさい」というので「おはようございます」と言った。ちょっと怖かったけど、笑顔で挨拶を返してくれた。お隣さんが右翼団体の大物だということを知ったのは、彼らが引っ越したあとのことだった。

幼稚園から帰ると、リビングで寝ていた父親を起こして2階へ呼びつける。ファミリーコンピューターのゲームソフト「ドラゴンクエストⅣ」をやるのだ。やるといっても、僕は操作しない。父親にやらせるのだ。たまに「そっちじゃないよ」とか、好き勝手な指示を飛ばしていた。父は僕にとって初めて見たゲーム実況者であり、僕は指示厨だった。

ゲームボーイと父

ある日、誕生日プレゼントにゲームボーイポケットと「ポケットモンスター赤」を買ってもらった。僕が触った携帯ゲーム機はこれが初めてだ。
夢中になって遊んでいた。

とその時、父親が立ち上がって自室の方へと向かい、しばらく後に帰ってきた。その手には2つのゲームボーイ用のカセットが握られていた。
父は初代ゲームボーイを新幹線のホームの売店で購入し、仕事場にも持ち込んでいたほどのゲーマーだったのだ。ゲームボーイが故障してからは随分眠っていたが、僕にそれを譲る、というわけである。

僕は、父親が持つ伝説の剣を受け継いだ、みたいな気分になって勝手に盛り上がっていた。

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