緊急!オンラインでの授業について

ついに、全国の小中高で春休みまで休校という要請が決まりました。そこで、コンテンツの作成ではなく、オンラインでの同期(同時に全員がアクセスする)授業について、これまでの私の経験(藤本2008,2011)と、オンラインコミュニケーションに関する論文、そして様々なイベントの記事などから、オンライン授業について簡単に書きたいと思います。毎回言ってますけど、私のnoteでは、技術的なハウツーは説明しませんので、それを期待している方には申し訳ない。

私はこれまで、色々なパターンの日本語授業などをオンラインでやってきて、今も研究を続けています。そしてつい最近、こういう論文を発表しました。

藤本 かおる(2019)「日本語初級レベルのグループオンライン授業での教室活動に関する研究―担当教師へのインタビューを中心に―」,日本e-Learning学会誌,2019 年 19 巻 p. 27-41

3名の教師へのインタビューによる事例研究ですけど、多分初めてオンラインのグループ授業で初級を教える方は、同じような感想を抱くことが多いのではないかと思います。とりあえず、日本語学校等で初級授業のグループオンライン授業でとお考えの方は、ぜひ一読してください。

オンライン上、特にビデオを使ったコミュニケーションは、Video-mediated Communication(VMC)と言われます。VMCの特徴としては、通信の遅延や視点の不一致など解決されていない技術的な問題が複数ありVMCはFTF(Face to Face)に比べ微妙な感情の手がかりを見失いやすいという点が挙げられます。また、VMCは動きや位置を制限するため、心理的距離を測る選択肢が少なく、文字や聴覚でのコミュニケーションよりも親密性は低くなります。そして、それらのことがコミュニケーションに影響し、同調や関与度がFTFより上手く働かない、感情の伝わり方などもFTFとは異なる点が見られると指摘されています(Kappas,e.t.l 2011)

日本の工学分野の研究者も同様のことを指摘しています。例えば、現在のテレビ会議システムやweb会議システムには技術やシステムの制限があり、教師と学習者の視線が一致しないためお互いにどこを見ているかわからず、ノンバーバルコミュニケーションが伝わりにくいことが明らかになっています。そしてこの点が授業活動の妨げになるとされ、それを解消するようなシステム開発や改良に関する先行研究が多いです(谷田貝・坂井2006、玉木・中茂・東野・小林2009、森川他2001)。開発したシステムの評価のための実践授業が行われ、学習者特性に着目した研究も行われています(中山・山本2009)。

しかし、実際にはこんな事例も出てきました。

「学びをあきらめる時代は終わった!? : 400人規模のオンライン読書会という「知的暴挙」の夜!?」

立教大学の中原淳先生の試みです。流石にここまでするにはかなり綿密な準備とスタッフが必要ですが、無事成功したそうです。つまり、これくらいの規模のイベントが、オンラインで開催できてしまう、それが今の技術力です。

これまでの経験と先行文献から、オンライン授業に関して私は、「一斉講義型」、「ディスカッション型もしくは交流型」の運用に関しては、対面授業と同様、もしくはオンラインであることの有効性が最も発揮され、魅力のある授業を提供することは難しくないと考えています。

オンラインの有効性が最も発揮されるのは、やはりこれまで接することができなかった人や機会につながることではないでしょうか。中原先生と直接話せる機会は、関東近郊にいてもそうたくさんあるわけじゃありません。それが、自宅にいながら直接お話を聞ける。これは、やはりICT技術の進歩のおかげですよね。

また、ディスカッションや交流型の使い方は、外国語教育、日本語教育でも、ずいぶん前から取り入れられている実績があり、教室で学んだ外国語のアウトプットのための交流型の授業や、国際理解や異文化コミュニケーション授業などの実践報告が多いです(廣瀬2006、松田他2008、小林2014、張2018)。

ちょっと、長くなりそうなので、ここで一旦切ります。続きはすぐに書きますね。

【参考資料】
Arvid Kappas, Nicole C. Kraemer (編集)“Face-to-Face Communication over the Internet: Emotions in a Web of Culture, Language, and Technology (Studies in Emotion and Social Interaction)”2011, Cambridge University Press
小林 智香子(2014)「文化を取り入れた総合的日本語教育による日韓国際遠隔授業における学び」, 比較文化研究 = Studies in comparative culture (110), 93-103,日本比較文化学会
張 晶・劉 潔・大橋 眞(2018)「対話型国際遠隔授業の成果と課題について : 青島理工大学と徳島大学との遠隔ネット交流の実例から」, 大学教育研究ジャーナル 15, 55-64,徳島大学
中山実・山本洋雄・SANTIAGO Rowena(2006)「学習者特性がブレンド学習の行動に及ぼす影響」,電子情報通信学会技術研究報告. ET,教育工学 106(364), 49-54,一般社団法人電子情報通信学会
廣瀬孝文(2006)「テレビ会議を利用した国際遠隔授業の試み --カナダの大学との連携授業の実践と自己評価--」, 岐阜聖徳学園大学紀要. 外国語学部編 45, 43-59, 岐阜聖徳学園大学
藤本かおる(2008)「初級日本語教育でのブレンディッドラーニングの試み: CMSと双方向テレビ会議システムを利用した東京・台北間での遠隔授業」, 日本語研究 28,首都大学東京, 31-44
藤本かおる(2011)「遠隔教育における初級日本語教育でのweb会議システムの利用とその考察-インドとの遠隔対面授業と日本国内の対面授業の比較を中心にー」,日本e-Learning学会会報誌 Vol.11,日本e-Learning学会,12-17
松田奏保・石川希美・小野真嗣(2008)「TV会議システムを用いたニュージーランドとの遠隔授業実施報告」, 苫小牧工業高等専門学校紀要,第43号,39-53, 苫小牧工業高等専門学校
村田梨奈・永岡慶三・米谷 雄介・ 谷田貝雅典(2017)「裸眼3D視線一致型・従来型テレビ会議システムおよび対面環境における目の疲労度の比較」,電子情報通信学会技術研究報告 = IEICE technical report : 信学技報 116(517), 201-206, 電子情報通信学会
森川治・山下樹里・福井幸男・佐藤滋(2001)「ビデオ対話における映像精度の視線認識への影響-映像精度が高い程良い訳ではない-」,VR 学会論文誌,Vol.6 No.1,VR 学会




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