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ビットコインの相続

※この記事は、ビットコイン研究所で2022年11月2日に書かれた記事を転載しています。


こんにちは,AndGoのハードウェア担当です。

皆さんは万が一ご自身の身に何かが起こったときにお持ちの暗号資産の相続について考えたことはあるでしょうか?暗号資産の歴史はまだ浅く,所持者の年齢層も比較的若いため,それほど話題にはなりません。

しかしながら,現実に多額の資産を保持している方もいらっしゃいますし,家族にも知らせずに所持しているというケースもあると思います。

また,暗号資産の思想的に基本的には自己管理するというため,万が一のときの対策も自身で行っていく必要がありますし,安全かつ確実に引き継ぐことも考えなくてはなりません。

今回は暗号資産の相続はどのように行うのかを,様々なケースを想定して触れていきたいと思います。

国内の取引所に預けているケース

暗号資産を所持しているほとんどすべての方は取引所に口座を持っているはずです。法定通貨・暗号資産それぞれを置きっぱなしという方も多いのではないでしょうか。定期的にコールドウォレット等に退避させしいる方であったとしても一時的にある程度の量が置いてあるはずです。

国内の取引所の場合には,基本的には銀行預金の場合の手続きとほとんど同じで取引所に必要書類を提出すると手続きをすすめることができます。遺言書の有無,遺言執行人の有無,遺産分割協議の有無などによって,必要書類は異なります。

受理されると取引所の口座が凍結されます。その後,相続人に払い戻しがされます。作成した相続人の口座に資産を移管するという方法を取っている場合もあるようです。以下のような取引所には比較的詳しく記載がされています。

逆に,相続に関する記載が詳しくされていない国内の取引所もありますので,皆さんが利用されている取引所の確認をされると良いと思います。

(調べていて知りましたが,75歳以上の方が口座を作れない取引所もあるようですね・・・)

また,調べる限りほぼすべての取引所が,銀行のような店舗窓口が無いため,全てオンラインでの対応になるようです。ご家族の方がインターネットを使用することに抵抗がある場合には難易度は上がります。

銀行口座であれば預金通帳やキャッシュカードなどが自宅にありますので,ご家族の方が気づけますが,取引所の場合には口座を持っていることを示す物理的なモノが無いため,そもそも資産を持っていることに気づかれないということもありえそうです。

また,苦労して取引所から資産を引き出せたとしても,ほとんどの資産がコールドウォレット等に退避されていた,ということもあると思います。

取引所の口座に資産を置いている方が行っておくべきこととしては,次のようなことを記録として残しておくことでしょう

  • どの取引所にどの程度の資産を置いているか

  • どこに問い合わせれば相続の手続きを進められるか

  • (ご家族の方に暗号資産の知識がない可能性のある場合)そもそも暗号資産とはどのような性質のもので,現金に換金するためにはどのようにすればよいか

外国の取引所に預けているケース

暗号資産に限らず,外国の資産を所持している方もいらっしゃると思いますが,非常に厄介なケースとなります。取引所のIDとパスワードが分かれば,別の場所に資産を移動することは可能ですが,IDとパスワードは本人のみしか知り得ない情報です。

国内の取引所であれば日本の法律が適用されますし,上述のように相続のフローについても問題なく行えます。外国の取引所の場合には手続きをしてもらえるかどうかも不明です。

また相続税の取り扱いについても非常に複雑になります。どこの国の法律が適用されるかもケースバーケースで,現地の弁護士に相談する必要が出てくるかもしれません。

外国の取引所は様々なメリットがありますが,このようなリスクについても考えておく必要があります。もし外国の取引所を利用する場合には,手持ちのウォレットに資産を逃がすなどの対策を取るのが得策かもしれません。

ウォレットで管理しているケース

スマートフォンなどのウォレットやコールドウォレットで暗号資産を管理している場合にはどうでしょうか?シードフレーズ,パスフレーズ,復元方法といった情報が残されていれば,簡単に復元ができるので,技術的には全く問題はありません。もしこれらの情報がない場合には大変です。

スマートフォンなどのウォレットアプリを使用している場合には,アプリにアクセスすることができれば資産を取り出せる可能性はあります。スマートフォンのロック解除のPINがわからなかったとしても,Apple製のデバイスでは条件を満たせば https://support.apple.com/ja-jp/HT208510 に記載されている方法で遺族がデバイスの情報にアクセスすることができるようです(Androidデバイスの場合には方法がわかりませんでした。)。ただし,アプリの起動や送金時にPINが設定されていると,この方法は使えないかもしれません。

ハードウェアウォレットの場合には,PINや(もし設定されていれば)パスフレーズが分かっていればよいのですが,これらが分からなければ,復元はほぼ不可能です。PINの入力に複数回失敗するとデバイスがロックまたは消去される場合もあります。

PINとパスフレーズだけは家族に伝えておく,または最近は法務省が2022年から始めた自筆証書遺言書保管制度を活用して遺言書に記載しておくというのも一つの方法かもしれません。本人と遺族しか遺言書を閲覧できない制度ではあるものの,遺言書は画像化されて保存されるということもあり,他人の目に触れるかのうせいがあるので,シードフレーズは記載しないことが望ましいと思います。

自分の万が一のことが起こった場合に,ウォレットで管理している暗号資産を,国内の取引所か,家族のウォレットに逃がすということも技術的には可能です。

まず,資産を決められたアドレスへ送金するためのトランザクションを作っておきます(誤ってブロードキャストしないように気をつけましょう)。そして,本人が決められたアクションを一定期間行わなかったら,トランザクションをブロードキャストするようにスクリプトなどを作っておくだけです。

どこまで仕組みを作り込むかは,相続する方の知識やセキュリティ,どこまで人に頼るか・・・などの観点から様々なパターンが考えられますが,第三者を通さずに相続することができます。(もちろん相続後は相続税の,必要に応じて専門家に)

資産が取り出せなくなってしまった場合の相続税は?

暗号資産は相続する場合,金額次第では相続税が課税されます。日本では日本円で税金を収める必要があるため,暗号資産を一旦日本円に換算した価値で税額が評価されることになります。

暗号資産に関する税務上の取扱いについて のp.38を参照すると,「暗号資産交換業者が公表する課税時期における取引価格」によって評価されることになるとのことです。

そもそもコールドウォレットで管理されている暗号資産が取り出せなくなってしまった場合はどのようになるのでしょうか?

国税庁のウェブサイトの資料には以下のような記述があります。

相続が発生して相続財産に仮想通貨が含まれていた場合、仮想通貨は財産的価値を有することから当然に相続財産となる。その際、被相続人のウォレットで管理されていた秘密鍵が相続人に承継されなければ、被相続人が保有していた仮想通貨は処分できなくなる。この場合、理論上は価値がなくなった資産を相続したものとしてその価値をゼロと評価する、又は相続財産としないとすることも考えられる。

つまり,「秘密鍵がわからなくなってしまった場合は,相続財産としない」としてもよいのでは?という見解です。ただし,その後の文章で,

しかし、秘密鍵が承継されていないという事実を当局が把握することは困難であるから、例えば、納税者からの反証がない限り死亡時の価格で相続されたものと推定するといった対応も必要と考えられる。

と書かれています。「秘密鍵が継承されていないということを証明しなければ相続したとみなす」という対応になるかもしれないということが記されています。無いことを証明するのは実質無理ですし,国税庁が死亡者本人が暗号資産を保持していた事実を知ることもできないので,非常に難しい問題です。

まとめ

暗号資産の相続は一歩間違えると財産を失いかねない自己責任の世界ですが,裏を返せば第三者を介さずに相続が可能になります。もし他の何らかの財産を第三者を介さずに譲渡しようとすると,現物や現金を渡すということになり,大きなリスクが伴います。暗号資産を使えば技術によってリスクを下げることができるといえるのではないでしょうか。

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