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【映画制作部 / プロデューサーの仕事って?】

すっかり桜も散ってしまいましたね。季節の移り変わりはあっという間です。こんにちはコギトワークスプロデューサーの関です。


今年も4月になり、新しく就職したり新たな仕事をはじめたりと何かと芽吹く時期ですが、先日、映画「シュシュシュの娘」にインターンとして参加していた学生さんから、この4月から映像制作会社に就職が決まったという嬉しい報告がありました。


入社する前に色々と話を聞きたいとのことでコギトに来たのですが、その質問はズバリ「制作部の仕事ってなんですか? / プロデューサーって何をする人ですか?」でした。
入社を目前に今後何をやっていくのか?はたまた自分はこの先やっていけるのか?から出てきた言葉なのだと思いますが、そりゃ不安ですよね。 でもこの質問、非常に難しい問いの一種な訳ですよ。なぜなら、プロデューサーって仕事を受ける立場ではなく、仕事を生みだす立場なのでその仕事内容は自分次第と言いますか、一言で説明しづらいんですよね。



とはいえ、折角の機会なので、ボクが思う「映画制作部とは?プロデューサーって?」ということを改めて書いてみようと思います。ただ学問的というのはまったくもって苦手なので、あくまでボクの体験からの話です。あたりまえに、それこそ人それぞれの制作部像があるかと思いますが、まぁその一つとして。


まず、そもそも「映画の世界に入る」ということから話をしてみましょう。
《映画の世界に入る》

実はこれが難しい。映像関係の就職先としては、CM制作会社だったり、TV番組、TVドラマ等の制作会社の募集はあるが、映画となると「配給会社」は多少見掛けるが「制作プロダクション」の募集はほとんどないのが実情なんです。(まぁ昔は(スタジオシステムがあった頃は)映画会社(東映、松竹、日活など)に就職する流れがあったんでしょうけど、今はそういうことではないのです)

でもこれ、学生にとっては「じゃあどうすればいいの?」ってなると思いますが、反面、理にかなっている部分もあるんです。

映画って、あたりまえですが一つ一つ違いますよね?監督やスタッフキャストが毎回違うのはもちろんのこと、ジャンルだって多種多様です。サスペンスもあれば、アクション、ラブストーリー、コメディ、SF、ホラーだってある。自分の得意不得意があるのと同様に、作り手としての向き不向きがあるんです。
だから映画を作る時には、その作品ごとにその作品がもっとも得意な最強の布陣を作る、必殺仕置人よろしく、フリーランスのプロを作品ごとに集めるという形態が映画作りにはもっとも適しているんです。そもそも組織(会社)単位ではなく、個人個人の集まり(チーム)なんです。



次の疑問は、じゃあどうやってフリーランスとしてはじめられるのか? そしてフリーランスって生活していけるのか? などの不安がつきまといます。

まず最初の入口については、無限な道が存在します。たとえば「ボランティアスタッフ募集」などの作品に参加してみたり、はたまた映画祭などに行って監督に思い切って声を掛けてみるといった道などがあると思います。SNSで憧れのスタッフを探してDMを送ってみるのもいいかもしれません。少しの「エイヤッ」という勇気を出せられれば、その入口のドアは結構開かれているように思います。


次に生活について。昔よく慣例的に言ったのが「七五三」という数字。実はこれ一ヶ月にもらえるギャランティーを表しています。
「制作進行30万円」「制作主任50万円」「制作担当70万円」というのを基準として考えられていたのです。現在もこれに大きく差はなく、この業界に入って見習い(通常1,2作が見習いかな?)を終えたあとには、月30万円を収入として受け取れるという算段です。(勿論ここから社会保障など自分でやらないといけない費用も含まれますが、きっと同世代の社員の平均よりは若干は頂いているはずです)収入の目安はこんな感じです。

次に、そもそも仕事があるのか?誘ってもらえるのか?という不安がやってきますが、これは大丈夫です。(断言してしまいますが。)
現在の邦画界は、年々作品数の増加傾向も相まってむしろ人手不足でして、色んな所から「来月誰か空いている方知りませんか?」といった具合に、常に人を探している状況であります。食いっぱぐれるなんてことはありません。

別の言い方をすると、最初に見習いで入った現場で実直に働いていれば、きっとあなたの上司が「来月空いてる?」と聞いてくれて、来月も、再来月も、またその次の月も、お誘いを頂けるといった具合です。そして、きっと次の組に行った際には誘ってくれた上司とはまた別の上司にも認められて、誘われ口もどんどん増えていくという仕組みなのです。なので、本当に、下手したら休暇がないくらい組から組に飛び移っていくことになるはずです。
(勿論引き受けるも引き受けないもフリーランスなので自分の選択です。ちなみにボクが制作部だった頃は、作品が終わったらその数日後にまた別の作品というふうに連続で立て続けに現場に入ってましたが、その代り9ヶ月くらい働いたら、3ヶ月ずっと休むなんていう気ままな生活を満喫していた時期もありました。)



大雑把ですが、以上が「入り口について」でした。映画界での働き方として「フリーランス」ということが向いていて、そして十二分にやっていけるということが、なんとなくお分かり頂けましたでしょうか?
実際にやってみるまでは不安が払拭されることはないと思いますが、大丈夫です。きっとうまく行きます。


さてさて、前段が長くなり失礼しました。ようやくここから本題へ。


《制作部って?》
よく聞かれる「制作部って何をする人ですか?」という質問から行きましょう。
いつもボクが返している一言は、制作部とは「環境を整える人」です。

これを解説すると、監督、演出部、撮影、照明、録音、美術、装飾、衣装、メイク、車輌部、俳優部などなど、映画に関わる全部署の仕事場の環境を整えて、彼/彼女らの能力を100%発揮できるようにしてあげる事を意味します。



お腹が減っていたら仕事にならないので、美味しいごはんを用意し、撮影に集中して貰うために熟睡出来る場所を確保し、演技のしやすい撮影に最適なロケ地を用意するなど、各パートの能力を100%引き出せる環境を作り整えるということが制作部の本質だとボクは考えています。


例えば、これは分かりやすいただの一例ですが、俳優部にお水、椅子などを用意しますよね?それってどういうことなのかというと、本番の時に淀みなくセリフを発せられるように口を潤して頂くためだったり、座って頂くのも本番に一番いいパフォーマンスを出せるようそれ以外では休んで頂くためであったりと。何も役者さん個人に媚びている訳では決してなくて、本番に100%の力を発揮して頂く為なんです。

こういったように制作部の仕事は、関わる全員の能力を引き出すのに最適な環境を整え、ひいてはその映画を最高の作品にすることなんです。


この本質さえ理解していれば、具体的な役職を任せられた時に、迷いなく行動に移せるはずなんです。

特に制作進行さんは、文字通り、制作(現場)を進行させる人です。故に各部署がスムーズに撮影をはじめられるように搬入搬出をいかに効率的に最短で済ませられるかを考えたり、もしそこが極寒の地ならば、少しでも身体が冷えないように工夫をしたり、全員の衣食住において少しでも快適な空間を用意することで、各部署のこだわりをより具現化しやすくするのが仕事なのです。



この本質を真剣に実行していると、きっとそのうち「君がいてくれて助かるよ」「実はこれどうしようか迷っているんだ」「いてくれて心強いよ」などと各部署から頼られ、その仕事を認められるようになると思います。制作部ってこの言葉が一番嬉しいし、誇りになるんですよね。

本質を追求して、日夜失敗を繰り返して、それでも10年、20年続けた時に、ようやくプロになれたのかなぁと感じられるんだと思います。
ちなみに余談ですが、制作部だけ「助手」っていう名称がないんです。演出部や撮影部、その他どの部署も助手さんなんですが、制作部だけは「制作進行」「制作主任」「制作担当」と全員その役職が独立しているんです。見習いの頃それを先輩から教わった時には根拠はないですが、なんだか責任を預けてもらえているように思えて、気が引き締まったのを今でも覚えています。


それと、ボクが制作進行時代に携わった”Lost in Translation”の現場でプロデューサーが言っていたのが、「ボクは若い時に、数ヶ月づつ全部署を経験したんだ」と言っていました。彼は各部署を経験することで、各部署が何に苦悩し、何にこだわりを持ってやっているのか、ということが理解出来るようになり「だからボクは今プロデューサーが出来ているんだ」と言っていたのを印象的に覚えています。


制作部としても、そしてプロデューサーとしても『各部署の思考を理解する』ということは、本質である「環境を整える人」であるためにも最も重要な心得なのかもしれないと今でもそれを大切に思い現場に立っております。
技能ということではエキスパートでない制作部は、だからこそ「想像力、共感力、観察力、分析力」には長けていることが、特技なのかもしれません。


《プロデューサーって?》

よく、制作部の先にプロデューサーがあると思っている人がいますが、これが実はそうとも言えないんです。もしかすると制作部の先には「ラインプロデューサー」という役職は地続きであるかもしれません。
ちなみにこの「ラインプロデューサー」というのは、その映画の制作費を預かって(管理して)その映画を完成させるまでの責任を有する人のことを指します。

なので映画制作(現場)の隅から隅までのすべての事を理解して、プロデューサー、監督、スタッフ、キャストと常に話し合い、滞りなく進むようそこはかとなくコントロールして完成まで導く役職です。
映画制作の玄人といったところでしょうか?それこそ、各部署の思考を一番共感出来ている存在かもしれません。



ラインプロデューサーもプロデューサーの一種ではありますが、それでも所謂プロデューサーとはやはり別モノと言えるのです。

では、プロデューサーって何?ということですが、簡単に言えば「映画を製作できる環境を用意出来る人」です。


と、プロデューサーの説明をする前に、映画を生み出す0地点の話をしないと少々分かりづらいので簡単に。映画は大体、プロデューサー又は監督又は脚本家の3人の内の誰かから「こんなアイデア映画にしたらどうかな?」という発言、発想から生まれてきます。で、この3人の中で「うん、それいい」とか「その映画観たい」とか「だったらこうしたらいいんじゃない?」などと話し合い、少しづつ少しづつ形になっていきます。この大元の種はこの3人の中の誰から生まれてきてもいいものですが、これが一旦形になりはじめて以降は、この3人の中でそれぞの役割に、プロデューサー、監督、脚本家として特化していきます。それが映画の企画開発の0地点の風景です。

で、そこからプロデューサーは何をするのかというと、この生まれたばかりの種を映画として製作出来るように、いやもっと言うと世に出せるように、それに必要な製作費を集めるということです。
当たり前ですがどんな良いアイデアだってお金が無いと存在しません。

そして映画は作っただけでは映画にならず、人に届けてはじめて映画となります。
なのでその映画を公開する出口も並行して見つけるのです。



自分で「この映画は素晴らしいんだ」と信じたら、あとはそれを磨き続け「映画として製作出来る環境を作り、世に発表出来る場を用意する」ということがプロデューサーの仕事なのです。

そうなんです。実は制作部の本質と同じなのです。環境を作るんです。ただ違うのは、その仕事が与えられた(引き受けた)ものなのか、自らその仕事を生み出す側なのかという違いなのです。
いや、こうやって文章で書くと大した違いに見えないんですが、これが思考も行動もまったくもって別次元なんですよねぇ。日々悩んでます。

あれ?、すっかり具体的な仕事内容ではなく、概念的なことばかりに終始してしまいましたが、ボクが思うプロデューサー / 制作部像というのは、映画にとってそういう存在なのです。


最後にもう一つ、その昔先輩から言われて勇気づけられた言葉があるので記載しておきます。

「どんなベテランスタッフだとしても、この映画はまだ存在しない映画なのだから、故に全スタッフキャストは等しく未経験者なのだ。だからこそ映画は組全員で知恵を出し合って製作するんだ。」


大変長くなってしまいましたが、これから映画制作部になりたいと思っているみなさまへの何某かの参考になれば幸いです。新社会人としてのスタートを心からお祝い申し上げます。そして将来何処かの現場で一緒になる事を楽しみにしてます。

よろしければ、サポート頂けますと幸いです。