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ネタバレ有り 映画「ブラック・スワン」解説

有名バレー団で次公演の主役に抜擢されたバレリーナが重圧と厳しい訓練の中で自分を追い込み過ぎてやがて心身に変調をきたしていく姿を描いた名作である本作。
そのまま観ただけではやや難解な作品なので僕なりに見所を踏まえて物語のあらすじを解説していきたいと思います。

まず、主人公のニナを一番追い詰めているのは清廉な白鳥の演技は完璧にこなせても、それと表裏一体の存在である妖艶な黒鳥の演技は満足にこなせないという点です。
真面目で清廉なニナには演出家のトマが求める黒鳥の妖艶さを表現すら事ができないからです。

いつもの様に結論から言うとそれは作中でも疑われている通りニナが処女で恋愛経験がないからだと思います。
だから演出家からいくら「もっと艶かしく!」とか「男を誘うように!!」とか言われてもそういった経験がないのでそれをどう表現すればいいのかわからないわけです。
その理由としては、一番は彼女の母親の存在だと思います。

元バレリーナでもある彼女の母親は作中でも言われている通りかなり強烈な性格の人物で、主人公であるニナに対して非情に過干渉してきます。
起きている時も寝ている時でさえも平気で勝手に部屋に入ってきて、外にいる時でさえ暇さえあれば何度も電話してきてニナの行動を束縛し、友人と遊びに行く事も許しません。
ニナには自由な時間は一切ありません。
それでは友情どころか恋愛なんて不可能です。
それも全ては娘をバレリーナとして羽ばたかせるため…なのかと言うと、どうやらそれも怪しくて

勇気付けなければならない所で平気でニナ自信をくじくような発言をしたり、大事な日の前にいきなり高カロリーであるケーキを食べさせようとして食べないと激怒したり(元バレリーナなのだからニナの気持ちがわからないはずがありません)
(これは本当に心配していた可能性もありますが)公演の日に寝坊した娘を起こさなかったりしています。

まるで娘を応援するどころか邪魔しているようにさえ見えます。
これは自分が娘であるニナを妊娠したせいでバレリーナとしての夢を諦めざるおえなかったという過去からきていて(完全な逆恨みですが)その癖、やたらと「若い時はモテた」と恋愛経験が少ない(自分のせいなのに)ニナに女としてのマウントを取る姿は非情に生々しく悍ましいです。
この母親は一見は「自分の果たせなかった夢を子供に実現させる」という典型的な教育ママに見えて実際は、自分よりもバレリーナとして上である娘に対してはかなり屈折した感情を持っている事が解ります。

本人はそういう内心は抜きにして一応は娘を一流のバレリーナとして育てる!!と意気込んでいるようですが、心の内がそうさせるのか彼女の存在は…特に妨害した事による恋愛経験の無さはニナがバレリーナとして一皮むけるための障害におもいっきりなりまくっています。
主役として抜擢される前のニナに既に精神が変調をきたしだしている傾向があるのは母親から逃げ出したいというメッセージだったのだと思います。

次にニナ処女説の発端になっている演出家のトマですが、彼からそれを切り出された時の会話は現代の一般常識で言えば問題ないかどうかわかりませんが(笑)実は答えられない程に卑猥な内容ではなく、経験があれば普通に答えられる内容でした。
しかしニナは「処女」である事こそやんわりと否定しましたが、他の質問にはずっと「////」といった感じで答えません。
「処女」を否定した事は、その事自体に対する恥ずかしさからくる嘘で、他の質問に答えなかったのは答えたくないのではなくわからないので答えられなかったのではないでしょうか。

そもそもそこまで演技における恋愛経験の有無を重視するのであれば、プレイボーイとしても鳴らしている演出家のトマ自身が抱いてやればいいじゃないかという話なのですが(ニナも好意を持っていますし)、僕はこのトマという人物は、指導方法が色恋型なだけで、ニナからキスを断られた事を「ガッツあるやん」と好意的に受け取っている事からもそこまで悪い男ではないと思います(ただの助平男なら普通にブチギレしていると思います)
プレイボーイであるだけにニナとの会話の中でこの娘は処女であると見抜いた事で、その先に進む事は純粋な彼女を毒牙にかける事になると思って慎重になったのではないでしょうか。
悪く取れば、前の「作品」であるベスとの関係が拗れた事から恋愛経験の少ないニナとは余計に面倒な事になるかもと及び腰になっていたとも取れます。

以上の事を話をまとめると
ニナは清楚さと技術により自分の生き写しである白鳥の演技は完璧にこなす事ができるが、黒鳥の演技に関しては妖艶さの欠如を問題に演出家であり想いを寄せてもいるトマから度々酷評される。
しかし、妖艶さを出そうにも恋愛経験がない彼女は妖艶さというものがそもそもわからないのでいくら練習しても改善しない(するはすがない)
それでも公演の時期は迫り、妖艶さを持つトマの秘蔵っ子でもあるリリーに役を取られるのでは?いう恐怖もあってニナはさらに心身に変調をきたしていく。
それでも執念で役柄を演じ切ろうとするニナは傷口から黒鳥の羽が出てくる幻覚を見る程に役柄に入り込み、あくまで役として、もはやニナとは違う人格であるブラック・スワンとして「白鳥の湖」を演じようとする。
そのかいがあって得意とする白鳥だけではなく黒鳥としても神憑り的な演技を披露したニナだったが、公演の中で錯乱の果てに自身を殺してしまっており、演目が終わると同時にスポットライトの灯りを受けながら意識を失う…って事じゃないのかなと

Xでのレビューでは「好きな作品だが、ミステリーとしての面白みには欠ける」と表現しましたが、そう考えると、この作品はそもそもがホラーやミステリーではなく困難に立ち向かい歪な形とは言えそれを乗り越えた女性を描いたヒューマンドラマだったのではないかなと。



 






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