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7人の女侍 6話 ”持つ女性と持たない女性 闘争の記録 完結編”

このシリーズは今回が最終話。
私の職場で勃発した、女性どうしの闘いについて。

前回:

20歳ほども離れた人と結婚しながら、順調に子を授かったシノブ
そのふんわりやわらなかな声と雰囲気は、接する人間すべての心を穏やかにするほどです。

一方、子を持てずそれに関する社会的恩恵をまったく受けてこなかった、お局的ポジションのアンリ
彼女にとって、シノブの妊娠・出産に伴う仕事の穴埋めに身を削るのは、我慢ならぬものでした。


アンリはシノブを無視したり、聞こえるように批判を口に出すようになってしまいました。

シノブはただでさえ初めての妊娠で不安が大きい中、アンリの精神攻撃はそうとう堪えたはずです。

女性事務員は他に5名いますが、シノブに味方する者、アンリに味方する者、「どーでもいいや」と我関せずの者、さまざまな反応です。

一見仲よさげに振る舞う7人の女性たちは、今回のようにその均衡が崩れるやいないや一気に無理が生じ、その仮面に亀裂が入り始めるのです。

もともとさほど仲良くないのだから、ランチは全員同じテーブルを囲んで、とか無理な付き合いをする必要なんてないのです。


この騒動勃発後のランチの雰囲気たるや、まるでエヴァンゲリオンのゼーレ会議です。
3人くらいが口元で手を組んで、碇ゲンドウポーズのようになっています。

「所詮、人間の敵は人間だよ」

とゲンドウの名言を誰かが言い出してもおかしくないほどです。


そんな調子が続いたまま、シノブは産休に入ります。

高齢出産の部類ですが順調に出産し、育児休暇も一定期間を過ぎるとどうせ無給なので、早めに職場復帰しました。


産休中、出産祝として女性たちでお金を出して何かプレゼントしたり、赤ちゃんを見に産科に行ったりなどの儀式がありました。

アンリはいったいどんな心境でそれに参加したのでしょう。

男からすればその集団同調圧力がとにかく理解できません。


シノブが職場復帰してからも、アンリからの無視は相変わらずです。

シノブが「ご迷惑おかけしました」と配ったお菓子は、アンリの机の上に放置されっぱなしです。

いつも昼休憩明け直後であってもお菓子を頬張り、あまつさえ私に分け与えてくるほどのアンリ。

彼女の机上にある福島の銘菓・柏屋の檸檬(れも)は、私にしか見えていないのだろうかと思うくらい無視されています。
シノブ本人に対する態度と同じです。


結果として、シノブからのアンリに配られたお詫びの檸檬は、数日後にアンリの隣席である私へ、あえなく譲渡されました。

シノブからのお菓子を食べる気がないなら、すぐ私にくれたら良いのに、しばらく目立つよう野ざらしにしておいて、シノブにダメージを与えてから始末するという陰険さです。

食べ物に罪はありませんからありがたくいただきましたが、こんなに味気のない檸檬は初めてであったことは想像いただけるでしょう。


こうした嫌がらせが続く中、シノブの振る舞いは、以前とまったく変化がないのです。

普通ならば、自分に嫌がらせをする人間は顔も見たくないだろうし、精神を壊してもおかしくありません。

しかし、無視されようと何事もなかったように話しかけるし、昼食も同じテーブルで採る。
食べてもらえなくてもお菓子はシェアする。

心中は穏やかでなかったはずですが、なんて心の強い女性なんだろう思ったものです。


シノブが産休の間、私はひっそりと昇進しシノブの上司となりました。

彼女の精神状態が心配なので、流行りの「ワン・オン・ワンミーティング」を実施し、アンリからの嫌がらせについて遠回しに触れました。

「つらいです・・・」

なんて心中の吐露&涙を想定していたのですが、彼女の口から出た言葉に、私は震えました。

「あれ、なんなんでしょうね(笑)」

「別にいいですけど」

これは強がりなのか。

いや、むしろそうあってほしいくらい、得体の知れぬ「畏怖の念」を感じたのでした。

子を持つ母の強さか。

いや、アンリが持たない「子ども」を自分は持っている、という優越感が生む心の余裕か。

どれであっても、女性って怖い。


シノブがそんな調子で一切動じなくなったので、ついにアンリも根負けします。

そもそも、仕事で関わる人をずっと無視するなど、無理なことは少し考えればわかるはずです。
まして、シノブの冷静な態度に比べ自分がしていることの未熟さ、生産性のなさに気づくはずです。


結果、無視し続けることも徐々に困難になり、今はもとの程度に戻りつつあります。


めでたし、めでたし。

というわけにはいきませんね。

そもそも、女性事務員の欠員が出た場合に、本来は上司が仕事をフォローすべきところが、できていない。

なぜなら、同じ部門の上司部下というよりは、「女性事務員」というくくりで担当している雑用が多すぎるからです。

たとえばお茶くみ、掃除、受付対応などがそうです。
入社からこれらは一切やったことがなく、偉そうにふんぞり返って仕事している男性上司が、代われるはずがありません。

そういった仕事も、本来は男だろうが女だろうができる形にしておかないといけなかったのです。お茶なんてペットボトル配布でいいし、掃除は女子トイレ以外は男がやればいい。受付は全員で業務内容をシェアできるようシステム化する、など。

それが無理なら、女性の中でも待遇に差をつけ、上下関係を組織として構築すれば、「女性上司に代わってもらう」ことができるはずです。

しかしそれも、我が社の場合は「女性は一律平社員、給与冷遇」となっているため、上下での穴埋めができません。
したがい、「女性社員の過剰なサービス精神を前提として乗り切る」という体制でしかないのです。

会社側の事情も少しわかる私の立場として、少し会社の言い分を言うと、実は女性事務員は「全体の仕事量より1人多く」雇用しているのです。
つまり、今回のような欠員が出ても対応できるようにしている。

ならば、それを前提とした運用体制となっていることを明確に本人たちに説明して、それをうまく活用すればよいのです。

例えば、フルメンバーが揃っている場合に生まれる余力で、上司の仕事の手伝いをさせる。決してサボったり遊んだりする時間を作ってはいけない。
そして欠員発生時には上司が手伝わせていた仕事は引き取って、その分で欠員女性担当の仕事をさせる。
このように、せっかくコストを掛けてバッファを確保しているというのなら、それを活用すれば、女性社員の成長にも繋がるし、男性社員・女性社員の垣根なく業務内容をシェアする状態を作ることもできます。

しかし、そんなことを考えている経営陣は、我社では皆無のようなので、

「○○さんが急に休んだおかげで、今日はネットサーフィンできなかったじゃないのよ💢」

なんて臆面もなく言い始める女性社員が生まれてしまうわけです。


即席課長である私の肩に載せられた荷は重すぎて、パワードスーツでも支給されないと身が押しつぶされそうです。


救いのない終わり方になってしまいそうなので、せめて最後に、今回のシノブから得た教訓を書きます。

無視の嫌がらせをされたら、その人にはなく自分にはある何かをもって、精神的にマウントを取ろう。

そして、たとえ反応がなくても自分からは普通に振る舞い続けよう。

それを続ければ、相手は自分の行為が恥ずかしくなり、徐々に態度を軟化せざるを得ない。

いや、普通できないよね、こんなこと。


シノブ&アンリ編 完


次シリーズ:マカナ編


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