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7人の女侍 5話 ”持つ女性と持たない女性 闘争の記録 Pt.2”

職場の同僚女性を紹介しています。
今日は昨日投稿した内容の続きです。

ほんわか・はんなりとした言動が特徴ながら、心の芯がとても強いシノブ。

20も歳上で決してお金持ちとは言えない夫の子を授かり、体調不良で急な休みも多くなってきます。

シノブは事前の根回しが不十分だったようで、職場の7人の女侍の中でも最古参である大ボスとも言える人物に、ついに目の敵とされてしまうのでした。


その女性は、歳は50代前半。見た目がふくよかで、一見いかにも「田舎のおばちゃん」といった風情。

長かった髪も最近はバッサリ切っておかっぱのようになり、その見た目を例えるなら、ヘタウマ印象画家・アンリ・ルソーの「人形を持つ子供」のようです。

彼女のことは「アンリ」と呼ぶことにします。

この例え、自分でも感心するほど言い得て妙です。

というのも、彼女は風貌によらず、といったら失礼ですが、中身はとっても「乙女」なのです。

ルソーの絵のように不気味な人形こそ持っていませんが、彼女の机には数々の「乙女グッズ」が見え隠れしています。

PCモニタの上には小犬の置物が安置されています。すぐに100円ショップで買ったものとわかるつくりです。

マウスのケーブルは、これまた犬が描かれたマジックテープでまとめてあります。犬好きであることは疑いがありません。

更に透明なデスクマットには、ペットショップのチラシを切り抜いたと思われる柴犬の写真が「内線番号表」の横に挟み込まれています。

その写真には「特価!98,000円」などと印字してあり複雑な気持ちになります。
しかしアンリにはそのような世知辛い現実は無視できるくらい、乙女心いっぱいの甘い世界に生きているのです。


そんなアンリは既婚者ですが、結婚したのは40代後半。

聞くところによると、「白馬の王子様」の登場を待っていたらその歳になったそうです。

結果的に取引先の農家さんと結婚したので、トラクターが白馬に見えたのかわかりませんが、彼女なりの幸せをゲットしています。


しかしながら、年齢のこともあり、子どもは授からなかったのです。

つまりアンリは、若いときに会社に入ってからずっと、何人もの同僚の、結婚→出産→退職 という流れを見届けておきながら、自分だけはずっと会社に居残っているのです。

見届けるくらいならまだ我慢できそうなものです。
なにせ古い体質の企業なもので、女性が掃除、お茶くみ、電話番等、すべての雑用をこなすわけですから、女性の欠員が出るたびに、彼女はその穴埋めをしてきたのです。

だからといってそれを会社から評価されることもなく、すべてを我慢してきたのです。

出産一時金、子育て支援金といった国の支援はもちろん、社員会による出産祝、そして出産・育児休暇の類に関して、アンリは一切、恩恵を受けていません。

そんな彼女が、女性として自尊心を保ちながら、利害関係すらある他の社員の出産休暇を、どうして歓迎することができるでしょうか。


言うまでもなく、女性の社会的役割は出産・育児だけでは決してありません

なのに、やれ出生率やら、やれ若者一人に対して高齢者何人やらと、なんだか子どもを残さない人間は社会のお荷物になっているかのようなデータばかりがメディアでクローズアップされます。

育児しながら働く女性をこぞって称賛し、女性が集まれば子どもの話ばかり。

もちろんそんな空気を作ったのは男性です。

やむを得ず出産できない、またはしない選択をした女性も、女性としての誇りと自尊心を持てるような社会でなければいけないのです。

このような社会の被害者といえるアンリと、なんとか滑り込みで恩恵を享受できたシノブとの間で、軋轢が生じるのは必然の出来事だったのです。


アンリの復讐は、わかりやすくシンプルで、かつシノブに最もダメージを与える手法でした。


復讐1:シノブからの声かけに完全無視

シノブには毎日、アンリに声掛けして処理する業務があります。

それまでは、「はいよ~」なんて微笑ましい返事をしていたのが、完全に無視です。

仕方なく、なぜか私が代わりに返事をする始末です。
(実は私はアンリの隣の席なのです)

復讐2:本人に聞こえるように、シノブの悪口

「昨日は伝票の締日だったのに、急に休むなんて考えられない」

「自分の仕事だけでせいいっぱいよ」

こういったことを、他の女性社員に話すテイで、シノブの前で口外します。

これには流石のシノブも効いたようで、涙を流しトイレに逃げ込む姿が目撃されるのでした💧


こんな状況ならば、シノブは会社を辞めてもおかしくないでしょう。

しかし、シノブは強かった。

どうやって彼女が乗り切ったのか、また次回に。


~完結編へ続く


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