ローソク

ローソクだーせーだーせーよー
だーさーないとーひっかくぞー
おーまーけーにー喰いつくぞー

 女性は扉を開け、
「はい、ローソク」
 と言ってローソクを手渡した。

「おい、ババア!ローソク出せっつって、本当にローソク出すやつがあるか!普通お菓子とかジュースとか、場合によっては小銭だろ!」
 そういうと小学生たちは家にずかずかと上がり込んだ。
「ちょっとあんたたち、なんなの?やめなさい!」
 制する女性を振り切って、小学生たちは台所やテーブル、押入れをくまなく探す。
「なんかあったー?」
「全然ねえなあ。」
「冷蔵庫にガラナ入ってっから、これ持ってこうぜ。」
 さんざんっぱら部屋をかきまわし、いくらかのジュースとお菓子を持って満足気な表情の小学生たちは、玄関に戻って靴を履いて女性に向かって一斉にお辞儀した。
「せーの、ありがとうございましたぁ」

「おーい、しんちゃーん。」
「おー、かずまたちじゃん!どうだった?」
「そこの角の松谷っていう家、でけえ家のくせにマジでローソク渡してきたから行かないほうがいいよ。」
「そうなんだ、無駄足になるところだった。ありがとう。あ、じゃあ一個教えてあげる。この裏にある金澤ってひと、100円くれる。『あら、何も用意してなかったわね』とかいいながらさ。」
「おお!まじかよ!ぜったい行くわ!ありがとう!」

 ローソクはローソクで、かーちゃんは喜ぶ。亡くなったばーちゃんの仏壇に手を合わせてかーちゃんが言う。
 「かずがローソクもらってきてくれたよ。」
 だって、笑っちまうよ。俺も手を合わせる。大量のお菓子とガラナを尻目に。

(了)

8月なんですけどね。

それではまた。

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