めんどうくさい遺言

男が死んだ。妻は先立っており、子供はいない。ヤギが一匹いる。
遺言を託された弁護士が、男の家にやってきた。家主はいない。ヤギが一匹いる。
弁護士はひとつ咳払いをした。応える者はいない。ヤギが一匹いる。
「それでは遺言を読み上げます」。その宣言は必要ない。先に待っている。
「私の財産は、すべてヤギに譲る」。今まで聞いたことが無い。これであっている?
弁護士は、自分の仕事が必要ないのではないかと感じた。そんなことない。役に立っている。
ヤギは弁護士の前で黙っている。そんなに待てない。次の客が待っている。
すると、ヤギの後ろから男の後妻がすーっと近づいてきた。良いことではない。面倒になっている。

「こんな臭いヤギにあげるものなんて何一つないし、だいたい人間でないものに財産を受け取る権利があるの?これは私が受け取るということで、間違いないわね?」
弁護士は面倒に巻き込まれたくなかったが、職務も全うしたかった。悩んでいるヤギに、弁護士は遺言書を渡した。

ヤギはいかにもヤギであるかのように手紙を貪った。僕には必要ない。ここまでやってきている。

(了)

ちょっとよくわからなくなってきました。部屋で単語を考えるのと、外に出るのとでは、だいぶ違いますよね。そこはわかった。

それではまた。

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