皮肉屋ケンちゃん

オンラインサロンのタイトルに「大学」を冠する人は大学や学問へのコンプレックスが強いという話を昨日していた友人が、今日死んだ。

彼の家は母子家庭で、子供は彼一人だった。親友である僕にお母さんが連絡をくれた。遺品整理を手伝って欲しい、場合によっては形見として持っていて欲しいとのことだ。

彼は皮肉屋さんだった。
彼の押し入れの中には、皮肉の在庫がたくさんあった。
「ネットで変な語尾を使うおじさんは、聞かれてもいないのにきもい自分語りをする」
「『京都人は皮肉屋が多い 』的な話題で盛り上がる京都含めた関西圏の人間は全員つまらない」
「病気になったことを報告するSNSのアカウントは、自分のプライオリティが上がることが大事なので、その病気の根絶を願っていない」
「お好み焼き定食に対して、未だに『 炭水化物と炭水化物じゃん』を一線級の批判文句として使ってくるやつは語彙力と感性が死んでる」
僕が首肯するかどうか、皮肉として成立しているかどうかは別として、彼らしい言葉がいくつも並んでいた。僕はそのひとつひとつを撫でた。彼の体温を感じ取ることができた。
梱包されている皮肉も置いてあった。通販サイトを運営していると、いつか彼は言っていた。まあそんなに大した額じゃないんだけどね、おまえでもできるよと彼は言っていた。

テレビをつけると昼のワイドショーがやっていた。終始怒り顔の元俳優である司会者が、事件の内容を受けて上手いことを言おうとし、言葉を詰まらせていた。
さてはこの司会者、実は彼から買った皮肉を言っていたのではないか、彼が死んでしまい皮肉が届かなくなったからこの司会者は歯切れが悪くなってしまったのではと思い、彼のパソコンを漁って売上リストを見たが司会者の名前はどこにもなく、そういえばこの司会者、もともと特にウィットに富んだ皮肉を言えるタイプじゃなかったし、それなのに彼と比べるのは失礼、いま言葉に詰まったのは純粋に能力の問題だと思い直し、お母さんに「これ持っていきます」と言った。

(了)

それではまた。

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