ばあばがくれたもの
目を瞑ると今にも聞こえてくる。
お正月、テーブルの上にばあばの手作りおせち料理が並ぶ。筑前煮、黒豆、えびふらい、かしわおにぎり、塩辛いおにぎり。筑前煮のれんこんは絶品。親戚一同テーブルを囲う中、いつも背中を向け立ってるばあば。リビングと居間を行ったり来たり。
瓶ビールの蓋を開け、コップにビールを注ぐ。
"さぁーーちゃん、やるうううう!!!"
小さいなりにばあばのお手伝いしたかったから。重たい瓶を持って助けられながら、ようやくの思いで一杯。どんなに時間がかかってもそばで見てくれてるばあば。
注ぎ終わると
"明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします。それでは、、、かんぱーーーい!"
*
目を開ける。
そこに立ってるのは痩せこけて弱ってるばあば。あのころのばあばはどこに行ったの。心の中で問う。
*
1年前、東京に上京してきた。と同時にばあばの末期癌を知らされる。後頭部をビール瓶で殴られたような重たい痛み。
"あんたが帰ってくるまで生きてるか分からないからね"
と母から。
いつ会えなくなるか分からない。ただ生きててほしい。その願いの中で自分の夢に向かってひたすらに走り続けた。でも、人には休みたくなるときだってある。分からないばかりの中で嫌になることだってある。そんな時、ふとばあばに会いたくなって、1年ぶりに故郷に帰った。
ばあばは言った。
"さぁちゃんに会いたくて頑張って生きてたんよ。"
その瞬間、身体の奥の方に沈んでた大きな重たい泥水が綺麗な水となって身体の外に出ていった。
人は自分を見失い、生きている意味が分からなくなってしまうことがあるけれど、自分がそこに存在しているだけで価値がある。ばあばの言葉がそう教えてくれた。
"さぁちゃんに会うのこれが最後になるかもしれないね"
声出して笑いながら言ってるばあばの目には涙が溢れてた。
人間はどれほど儚い生きものなんだろう。
だから、私は小さくなったばあばを抱きしめた。
"ばあば、またみんなで集まって美味しいもの沢山食べようね!!!!すぐ帰ってくるからね!!!お正月、みんなでまた乾杯しよう!"
そう言うとばあばが重たい身体を支えて立ち上がり、冷蔵庫からりんご黒酢を取り出し、
"今日はこれしかないけど、乾杯!"
って。笑
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