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●台所のおと/幸田文●

幸田文の文章を、流れるような美しい日本語、と評するだけではとても陳腐に聞こえる。けれど一言で表すとしたら美しいというよりほかない。
過ぎてしまったかつての時代には生き生きと使われていた日本語の表現。いつのまにか画一化され、柔軟さを失ってしまった言葉たち。ああそうだ、こういう表し方もあったのだ、この言い回しの方がぴたりとはまる、といった日本語の使い方に改めて出会い直し、心が清涼となる。

濃紺、雪もちの二篇がとりわけ素晴らしい。知らないはずの時代なのに、空気のにおいや手触りさえも、いつか体験した記憶のように鮮やかに私の中に再現される。
読後の涼やかさはまるで、心を取り出してざぶざぶと洗ったように潔い。
文章の美しさに心を洗われるといった体験は幸田文作品にしかない。と、浅学の私は思うのだ。

余談だけれど、ちょうど読み進めているときに映画「PERFECT DAYS」を観た。主人公の平山さんが選んだ一冊が幸田文。幸田文いいよね、平山さん、と首肯しながら嬉しくなった。

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