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「プリジョネイロ」を観て。 / ブラジルの貧困と人身売買の問題に迫る映画

観ようと思ってなかなか観れず、長らくNETFLIXのマイリストに入っていた映画「プリジョネイロ」を観た。 #世界人権デーによせて

貧困ゆえに人身売買業者の餌食となった青年は、その支配から抜け出そうとあえぐなか、自身のモラルと生き残りをかけた手段を選ばぬ戦いのはざまで揺れる。

今回は映画解説、あらすじ紹介はせず、ゴールを定めずに感じたことを散文チックに綴ろうと思う。

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正しい情報が届かないことによるリスク

主人公のマテウスは田舎町で暮らしていて父親がいない様子。母と妹と思われる娘2人と、貧しい生活をしている。その家族に良い思いをさせようとサンパウロ(大都市)での出稼ぎを決意するが、その実態は知らなかった。

賃金が支払われていないことに疑問を持った時には、時すでに遅し。監禁され、銃で脅され、家族の居場所も知られているので逃げ出すこともできない。

さらに、唯一の外との連絡手段である携帯を没収されるので、家族の側にも正しい情報は届かない。

権力との癒着

映画内で、人身売買業者であるルカと警察組織、政治家との癒着が描かれている。逃げ出せば警察が家族を殺すと言い(実際にサムエルの家族は警察に殺された?)、ルカが今このような仕事をしているのは、その政治家のためだとルカは仄めかしている。

また、韓国系のマフィアとのやり取りも見られる。人身売買のターゲットにされていた人の国籍はバラバラで(中国?、ハイチ、ベネズエラ、ブラジルなど)恐らく様々な国の人身売買業者とのコネクションがあると思われる。

希望である労働省の査察も届かない

映画の中で突然、ルカやマテウスが働く廃品回収工場に労働省の査察が来るシーンがある。ルカの慌て具合から察するに恐らくこの査察は抜き打ち。唯一の希望となりうる外からの手だったと思う。

労働省がマテウスに聞いた内容は以下の通り。

労働期間、同僚の存在、労働手帳の有無と所在、労働時間、残業、生活環境

しかし、ルカの圧力がかかり、時間が無い中ではこの状況を伝えることはできず、さらにはルカに気に入られようと「問題はありませんよ」と嘘の情報を労働省に伝えるマテウス。

あと、「労働手帳の所在」を確認してきて、「自分で管理すること」と念押ししているので、やはり労働手帳や携帯などの重要なものを取り上げて(リテラシーの差と圧力によって)支配する、というのは人身売買業者の十八番なんだろうと思う。

仲間を取るか家族を取るか

映画内で度々描かれるマテウスの葛藤。

「従順に従って人身売買業者の側につけば、給料も上がるし身の危険も少ない。家族に仕送りもできる。しかし、仲間を裏切ることになる。」「反抗して逃げ出せば仲間と共に自由は手に入るがお金は無くなり、危険もある。家族もどうなるかわからない。」

その葛藤の中で徐々に良心を麻痺させ、負の連鎖を助長する側に回ってしまうマテウス。恐らく昔はルカもこのような葛藤を経て今の道を歩んでいるのだろう。

連鎖する貧困と人権問題

言わずもがな、貧困は連鎖する。資本主義経済の中でお金を失うと、正常な判断能力、環境、能力が世代を越えて連鎖して悪い方向に向かう。

さらに、貧困は時として人権問題も内包しているケースが多い。

奪われたものが、他の誰かからより多く奪う。憎しみの歯車は一度動き出すと加速するばかりで止めるのが難しい。

マテウスも貧困とは言え家族と共に過ごしていたときの方が幸せだったのではないか。

どこを変えれば状況は好転するのか

最後に、途中からこの映画を観ながら、「どこを変えれば(どの歯車を変えれば)状況は好転するのか」という視点で考えていた。

正義の反対は悪ではなく他の誰かの正義。という言葉があるが(正確では無いがこんなニュアンスだったように思う)、絶対的な悪のように思える"人身売買問題"を扱ったこの映画でも、関わる人たちそれぞれに抱える事情があり、葛藤の中で歯車を作ってきたように感じられた。(とは言え絶対に許されることでは無いが)

しかし、ただ闇雲に現状を憂いていても何も変化しない。

なので、一旦怒りを抑えて、歯車を回している人ではなく出来上がってしまった目の前にある複雑な歯車の集合体のどの歯車をどのように変えれば良いのか、そして誰が変えるのか、ということが重要になってくるのだとは思うが、結論を言えば、この場合での決定的な答えはわからなかった。

そうですね、わかりませんでした。

まぁ、そんな簡単に分かるならばもうとっくに解決しているはずなので当たり前と言えば当たり前なのですが。

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こんなことを現代の象徴とも言えるパソコンを使って書くのはそれこそ矛盾しているとは思うが、資本主義社会は行き着くところまでいくと貧富や階級、人権など、あらゆる場所で分断を生み出すのだろう。

とにかく、自分がもしマテウスだったら、と深く考えさせられる良作ではあったが、そう考えることが出来ている時点で自分は恵まれた立場であることは間違いないし、このような問題は今も世界に溢れている。

知ったからには少しでも責任が伴うんだと、現時点での僕は思う。


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