地下アイドルのライブに行った話

契機


「東京おるん?」

TwitterのFFからこんなリプが来た。先週のことだ。

「何も予定入ってないので東京に留まれますが……」

曰く、19時に秋葉原に来いとのこと。社会勉強という名目らしい。

このFF、知り合ってから1年かそこらで実際に会ったこともない。
初エンカがこういう形でもおもろい、とは彼の談。

連絡を貰ったのが17時前。北千住にいたときだった。
少し時間を潰しつつ秋葉の路地裏に向かうことにした。

開門

彼は雑居ビルの入口で待っていた。背が高い。どうやら頭も良いらしい。
年季を感じるエレベーターに乗り込んで、6階だか7階だかまで上がる。

扉越しに大音量の音楽が聞こえてきた。音楽と言うと範疇が広いか。
いわゆる…………最近の曲である。曲名は不明。筆者は音楽の知識が皆無だ。
クラシックやジャズではないし、たぶんデスメタルでもロックでもない。

入口で支払いを済ませ、会場の黒い扉を開けた(FF氏の奢りである)。








私は生来ずっと静かな場所自然光に満たされる場所が好きだった。
例えば図書館と美術館。科学館・水族館・動物園・植物園。
山も好きだが、あまり体力がないので登山が趣味とは言えない。

ゲームセンター、スポーツ観戦、遊園地、テーマパーク。これらは違う。
人混みや騒音、人工的な光がピカピカ点滅している場所は避けてきた。

そしてここには、私がこれまでの人生で拒絶してきたものしかなかった


開幕

私だけならこういう場所からすぐに立ち去るどころか近寄ることもない。
だが、今回は完全無料(FF氏の自腹)のご招待だ。
しかもFF氏は普段なら最前で絶叫するらしいが、今回は私に気を遣って、中ほど~やや後方にいてくれた(後に彼の推しの登場と共に前列に吸い込まれた)。
ここで腹痛だ何だと言い訳をゴネて逃げるのはあまりにも無礼。

男としての覚悟を決めた。

奥に1段ほど高くなったステージに、5人前後のアイドルが並ぶ。
彼女らは派手で個性的ながら、どこか調和の取れた服に身を包んでいる。
私は息を整え、未知なる場で未知なる者を受け容れる準備に精を出した
あらゆるものを吸収していた、中学生・高校生の頃を思い出して。

理解に齟齬があると彼女らに迷惑をかけてしまうので、細部は割愛するが、彼女らのグループは大所帯で、グループの中で5人程度の小さなユニットに分かれて各々のテーマに沿ったステージを披露し、その出来不出来でランクを上げていくという企画らしい。ランクの昇格判定はユニットではなく、個人に施される。

早い話がSELECTION PROJECT(動画工房 et al, 2021年放送)とIDOLY PRIDE(Lerche et al, 2021年放送)の合いの子のようなものだ。
まさか現実のアイドルとアニメのアイドルが同じことをやっているとは。


今回はトリとして5ユニット、総勢約25人が参加していた。

1組目のユニットのステージが始まった。
入場時にステージに立っていた他グループよりも、圧倒的に強い声量。
歌も踊りもアイドルもさっぱりだが、それでも雰囲気の違いは感じられた
このユニットのテーマは"王道"だと思われる(合っている自信はない)。
1曲披露したらすぐにMC(ほぼ自己紹介)を挟み、次のユニットへ。
1ユニットあたり1曲という、目まぐるしいテンポで進行していく。

彼女らは歌って踊り、観客はタイミングの揃ったコールアンドレスポンスで盛り上げる。全てが一体となった場の力を私は目に焼きつけていた。
小規模ながら参加者の熱意が凄まじい、知らない分野の学会に参加しているような感覚に陥った。

そして3ユニット目だか4ユニット目だかで、遭遇してしまった


邂逅

私は中央付近でステージを観ていた。その視界は図1のようになっている。

図1: ライブ当時の視界を模式的に表している。赤で示した領域が可視エリア。

実際、ステージは前の観客に阻まれてほとんど見えないし、かといって左右にうろうろ動けば後ろの観客の邪魔になるだろう。
初見の者が、"推しのために来ている誰か"を妨害するわけにはいかない。
そう思った私は膝を曲げ気味にその場から動かないよう気張っていた。

そんな決して良いとは言えない視界でも、唯一しっかり見えるステージの一角があった。図1において赤で示した、左端のエリアである。


彼女はそこに立った。


ステージ開始時に唯一見える場所に立っている、最初はそれだけだった。
とても姿勢が良い、そう感じたくらいだ。

だが、次第に違和感が湧き上がってくる。
その違和感はどんどん膨れ上がり、やがて確信に変わった。


背が高い。


場所をくるくると入れ替わりながら歌と踊りを披露するユニットメンバー。
他のメンバーが可視エリアに来るたびに、彼女と比較する。
目算だが、明らかに頭1個分は違う

背が高い。ただそれだけなのに、視線は彼女に吸い寄せられていった。


惹かれるということは、よく見るということ。
よく見るということは、細部も見えるということ。


顔立ちが整っている。派手ではないかもしれないが、綺麗な左右対称だ。
目・鼻・口・耳・輪郭のバランスは相当のものに感じられた。
いわゆる美人顔に分類されるのだろうか。このあたりも私はよく知らない。

手足が長い。筋肉量が多い。骨格が強い。体幹がブレない。
長い四肢が力強く舞い、その軌道は一切の歪みや迷いを纏わないのだ。

そして
ステージを見ていて、ダンスは常に全身が動いているわけではなく、必ずどこかで止まる、むしろ止まらなければ美しくない場面があるように感じた。
すなわち、ダンスとは動→静→動→静→……の繰り返しである。
この動と静のメリハリというか、境界というか、その落差が凄まじいのだ。
パワフルで真っ直ぐでありながら、暴雑さを一切感じない美麗な動。
最後の一滴まで張り詰めた水面のような、観客の呼吸音すら溶けていく静。

私が釘付けになっている間にライブは進行し、いつの間にかFF氏は推しの出番が来て前列に飛び込んでいった。
もちろん私も最後まで観たが、脳裏にはずっと彼女の姿があった。

アイドルなんて、ダンスなんて、歌なんて全く分からない。興味もない。
正直なことを言うと、彼女の登場までは照明機材のLED素子を数えたり、光強度や消費電力、発生する熱量を試算したりする瞬間もあった。
そんな私が、たった4分間でここまで魅入られてしまったのである。

解散

このグループがトリだったので、ステージ終了後はほどなく物販になった。当然のごとくチェキは彼女を指名した(名前はFF氏に聞いた)。
この時、ユニットで彼女だけが踵の低い靴を履いていることに気づいた。



















靴で差を埋めて尚あの身長差!!?!?!?!?!?
おいおいおいおいおいおい















撮ってもらったチェキ。顔がすごくよい。笑顔も凛とした表情も素敵。
彼女はステージ用の厚底の靴を履いているとはいえ、目線がほぼ同じ高さのように感じた。

ほんと背ぇ高! 顔良!!!!!(身長171cm男性、大変な笑顔である)


30秒で描いてもらった似顔絵サイン。アイドルに多才性が求められる時代の象徴かもしれない。

似顔絵も!?
富士額まで描いてくれた!?!??!?!!?
観察眼すご!!!!!!!!!!!!!


ビラ……というよりポスター。表面には彼女の写真が大きく、裏面にはイベントスケジュールがみっちりと印刷されている。

ビラ(写真付きA4)にもサインを!??!!!??
特別だって!?!!?!!?!!?!?!?!?!?!?!?


サービスが手厚すぎてもはや後期高齢者医療制度なんだが!?!??
いや今回はFF氏の自腹魔法によって自己負担ゼロだからそれ以上か…………













ビラ裏面のスケジュール。10月25日が火曜日になるのは直近だと2022年と2033年である。

って去年(または10年後)のビラやないかい!!!!!!!!!!!!














2022年に精力的に活動していた名残だろうか。などと邪推を巡らせてしまう。

似顔絵の日付も2022に書き足して2023にしとるやないかい!!!!!!




…………6月のボーナスでラミネーター買います。


地下アイドル、誠に面白いものである。

ご招待いただいたFF氏と、当日素晴らしいステージを披露してくださったアイドルの皆様ならびに関係者様がたに、多大な感謝を申し上げます。


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筆者Twitter: @codon_omi

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