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#5. “レジリエンス”について

うちの病院の院内報に毎月書いているコラム“Pediatrics Note”です(800字前後)。診療をしていて感じる、とりとめもないことを書いています。今回は過去号をアップします。2021年の2月号です。

今回は「レジリエンス」についてご紹介します。元は物理学用語で、「外力による歪みを跳ね返す力」として使われていましたが、精神医学に転用され「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」という意味で使われます。他の精神的なスキルと同じように、レジリエンスも生まれながらにして持っている能力ではありません。レジリエンスの発達が妨げられた子は、自分が不利な状況に陥った際、それがたとえ些細なことであっても、平衡状態が保てずにキレてしまったり、パニックを起こしたりしてしまいます。どのようにしたら、レジリエンスが健全に発達するのでしょうか。

著しい逆境にあっても、子供を守り、レジリエンスの発達を支える要素として以下のようなものがあります。

• 支持的な大人と子どもの関係
• 自己効力感と事態をコントロールできるという感覚
• 適応力と自己調整能力
• 信頼や希望を与えてくれる文化的伝統などの存在

「レジリエンスを育む―ポリヴェーガル理論による発達性トラウマの治癒」(岩崎学術出版社)より

また、ハーバード大学の子ども発達センターでは、子供がレジリエンスを発達させるために最も重要な要素は

親、養育者、その他の大人等、誰か一人の人と深い安定した関係を持つこと

同上

と提唱しています。逆に言えば、これらの要素が乏しい環境で育つ子ども達はレジリエンスの発達が滞ってしまうということです。キレやすかったり、パニックを起こしやすかったりする子に出会った時、その子に発達障害があるのではないかと考える方は多いと思います。間違いではありませんが、それ以上に「レジリエンスの発達」について考えてあげて下さい。そして、もし可能であれば、あなたがその子にとっての深い安定した関係を持つ大人になっていただければ、ありがたいです。よろしくお願いします。
(2021年2月)

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