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ripple ring【くしかつ先生の定時制高校日記】003

2018年5月9日(水)

ADHDやASD等、発達障害と呼ばれる特性には、医学や福祉の立場から様々な見解が存在し、支援の方法にも何が正解か断言が難しい部分がある。

19歳の裕司(仮名)は心療内科を受診し「ADHD」と診断された。

幼いころから授業に集中して取り組んだり人の話を聞くことが苦手で、中学校や高校の学習に付いてこれなかったそうだ。

現在の裕司は、どちらかと言うと興味を持ったことに対しては考えるより先に行動し、よどみなく話すので、快活な印象を与える。

髪の毛はいつもボサボサだが、明るく染めているため、いかにも今風な若者に見える。

ベルトがベルト通しをスキップしていたり、靴ひもを結べていないのはいつものことだが、不潔な感じがしないのは親も気をつけているからだと思う。

↑イメージ

一方で、やらなければいけないことを順序立てて整理するのにとても苦心しているようで、その時の彼は考えが「とっ散らかって」いる様子だ。

学習の成績はなかなか上がらず、指示したことも記憶の引き出しの奥の方にしまわれてしまうことが多い。

一度、電車が遅れた時にテンパってしまって、違う列車に乗り換えたとかで2時間の遅刻をしたことがある。しかし性格は至って穏やかで職員室を騒がせるような大問題を起こしたことは無い。

「おれダメなんすよ、ポンコツなんで~」これが口癖だ。

そこには、裕司特有の明るさや無邪気さも感じられる。

同時に、今までずっとそうだったから、という絶望やあきらめと憤りが存在する。努力による結果の好転が期待できないことを大人に分かってもらわねばという切迫感や危機感、迷惑を掛けたくないという悲しい配慮を感じ取れる。

小生の勤務する通称「とん平高校」の定時制には、様々な事情や背景を持った個性的な生徒が集うが、それを差し引いても、現在の裕司を観察していて特別な子という印象は抱かない。

振り返れば、小生自身は大学を卒業した後、食品系の商社で3年間勤めた。

昔からマルチタスクが苦手で、課長の長々とした話からは指示を上手く汲み取れなかった。家に帰れば裕司の机の中を笑えないくらい部屋は汚い。

それでも客観的に見れば、教師の夢をあきらめきれずに転職し、そこそこの経験を重ねたガッツある社会人だということになるのだろう。

改めて考えさせられる。正常な者とそうでない者の違いは何だろう。

個人個人の特性や性格も人生を形成する大きな要素だが、個人が社会の中で生きている以上、周囲の人々や環境の持つ意味はとてつもなく重要だ。

CHAGE and ASKAの「ripple ring」からキーフレーズを借りると
「人はメロディー、寄せてハーモニー」

中島みゆきの「糸」の歌詞にも通じるところがあるが、小生たちはたった一人で生きているわけではない。誰もが少なからず周囲の人たちに助けられて活かされている。

人は「太郎」や「花子」単体を厳密に評価することはできず、「太郎」や「花子」が生活する環境ごと切り抜いて、一枚の絵として正常だの落ちこぼれだのと見解を述べているのだ。

インフルエンサーと呼ばれる多彩な才能を発揮しているタレントやベンチャー企業の経営者。

もし彼ら彼女らが周囲のスタッフの支援を得ることなく、平凡な企業にぴかぴかの新入社員として入社していたら、そこでビジネスパーソンとして能力を発揮することができただろうか。

一方で、学校や会社の集団で不協和音を奏でてはみ出してしまう者。

テストの点数が悪くても、たまたまめぐりあった担任の先生を困らせていても、実は能力を活かして大活躍できるフィールドが別にあるかもしれないのではないか。

もちろん特別な才能が宿ることは宝くじに当たるようなもので、環境を変えたからと言って所謂人生の大逆転が起こるわけではないかもしれない。

そうだとしても、勉強することはつまらないばかりではないな、という発見とか年齢やルーツも様々なクラスメイトとの思い出とか、簡単な履歴書の書き方くらいは、教え子全員に持って行ってもらいたい

議論が尽きないはずのテーマである。歌詞の一節で簡単にまとまるはずはないかもしれないが、まずは素晴らしい楽曲と歌詞とが存在し、そこから「こんなことにも思いを広げられるね」という文章だと、ご理解いただければ幸いだ。

人はメロディー 寄せてハーモニー
いつかナチュラリー
信じてごらん 側にあるよ
きっと鳴るよ
やさしい音色で すべてを越えて
走れよ ripple ring

1988年に発売されたアルバム「Energy」の1曲目に君臨するのがこの曲「ripple ring」だ。

作詞がChageとASKAの共作という点が超レアであり、この曲に言及したインタビューなどからは、ChageがASKAの世界観を体感するかのようなアプローチが想像される。

リリースされた当時はバブル真っ只中。チャゲアスは「SAY YES」での大ブレイク前ではあったものの、1986年の「モーニングムーン」のスマッシュヒット、1988年には「恋人はワイン色」がドラマ主題歌に起用され、30歳になったばかりの彼らは、上り坂を全力疾走しているような感覚であったと思われる。

この時このタイミングで敢えて、これだけ癒しをフィーチャーした楽曲をリリースできることに、彼らの才能の深みと凄みを感じる。

そしてそれに留まることなく、時を越えて2004年のtwo-fiveコンサートでのパフォーマンスでは、もう一段上の(まさにHigher Groundな)音楽性がこの曲を通して示された。

実験したことは無いが、「赤ちゃんが泣き止むチャゲアスの楽曲」にセレクトされる日も遠くないだろう。

本日の「I CAN’T STOP EATING」

10年ほど前に、松本で飲んだ時に締めとしていただき、それ以来この地を訪れると寄らせていただいている。

濃厚な豚骨スープを身にまとった細麵が仕掛ける波状攻撃は、この店から徒歩圏内にある松本城の天守閣を狙う武田軍の軍勢のようでもあるが、そこには一貫した優しさも感じられる。

松本市も中部地区有数のラーメン激戦区である。通の間で高評価を得るラーメン店、地元の圧倒的人気店、特徴的なラーメン等々は、この他にもあまた存在する。

しかしこの店からは、信州の地で博多風ラーメンを提供することに忠実にこだわろうという強き想いがうかがえる。

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