後ろ髪をひかれる
「もう無理じゃない?」と告げた。
スタートから遠距離恋愛になると分かりきった恋愛だった。かつての浪人仲間ではあったけど、さして交流のない知り合いに過ぎない人だった。メガネである事を除けば、理想にかすりもしない人だった。
交際期間は2年半に渡り、往復3万の遠距離恋愛なわりには話せるトピックに事欠かない交際だったと思う。関東と関西と問わず色んなところに行った。特に上野は二人のお気に入りの場所。高尚だね!なんて笑いながら美術展巡りをした。時にはお互いの地元の公園でスタバを片手にのんびりと日が暮れるのを待った。雨の日は部屋に引きこもって映画を見たし、夜には散歩をした。会えない日々は毎晩電話をして、月に一度は喧嘩をした。そんな相手だからこそ、そんな恋人に別れを告げる日が来るなんて、想像もしていなかった。
恋人に別れを告げる日が来るとは思っていなかったけれど、それは必然だったと思う。死ぬほど恋しい相手だったから。嫌われたく無くて必死だった2年半は、自分でも知らないうちに鬱憤を貯めていた。トリガーが引かれたのは、バイト先が一緒の、“どタイプ”な人に口説かれた瞬間だった。
学生の自分と、新社会人な恋人。すれ違うのは目に見えていたけど、すれ違っている事にも気付けず時間は過ぎて、トリガーが引かれた瞬間に寂しさが爆発した。
頑張ってがんばってガンバッテきたから、もう無理だと思った。
だから、「もう無理じゃない?」と告げた。
もう無理じゃない?と悲鳴を上げているのは、他ならない自分の心であったけど、二人の心の悲鳴にして、もう苦しむのはやめようって持ちかけた。
君は泣きながら「死ぬほど努力するから別れようなんて言わないで」と言う。
別れようなんて言えない臆病な心を君は気づかない。
そんな決定的なワード、言えないのだ。
だって。
まだまだ君としたい事が沢山ある!!君とあの映画の続きを見に行きたい!日本だけじゃ無く、メトロポリタンでも大英博物館でも、一緒に行きたい場所は世界中にある!公園で微睡む時間は最高に幸せで、君とまだあの山にだって登ってない!
飽きるほど君と一緒に居たい!!
君が「触り心地がいい」と言った後ろ髪がひかれている。
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