求愛リザベーション ※BL注意
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「それで、なんの用だい?」
俺を、ファミレスに呼び出したのは、先日まで俺の恋人だった女性。
「……」
「はぁ……」
の、弟だった。
*求愛リザベーション*
突然の電話だった。
恋人にプロポーズするも、あえなく散ってしまった俺にとっては無神経なもの。
『話があるから』
場所はメールするからと間を置かずに告げ、俺の都合も聞かず、一方的に通話を切った。
俺は、通話の途絶えた電子音を暫く呆けて聞いたままで。
携帯を握り締めて固まる姿を、秘書に見つけられるまで結構時間が経ったぐらい。
それだけ、俺にとってはショックが大きな出来事だったのかもしれない。
とりあえず秘書に『急用が入った』と伝え、その後の予定を全てキャンセルさせると、すぐにメールで指定された場所へ車を向かわせた。
そして、今に至るのだが――。
「……コウヘイくん」
私より先に居た彼、コウヘイくんは俺が向かいの席に腰掛けても、一向に口を開く様子はなく。
ただただ窓の外、大通りを見つめていた。
もうかれこれ十五分は経っている。
仕事をキャンセルしてまで来たのに、三十路間近のオジサンがからかわれたのだろうかと思ってしまう。
「無神経だな、君も」
「……」
「俺は、君の姉さんにフられた男だよ?」
「……」
「しかも一方的に呼び出すなり、話どころか黙ったままで」
(いったい何考えているんだ)
心の中でぼやいて、冷めかけているコーヒーが注がれている真白いカップへ手を伸ばす。
すると。
「シュンちゃん。まだ姉ちゃんのこと好き?」
「え?」
「どうなん?」
まだ彼は窓の外を見ていたが、その問いかけは、俺に向けられていた。
彼がどういう答えを欲しているのか、思い浮かぶのはいくつかあった。
「彼氏を、取り返したいんだ?」
その中で思い浮かんだ理由を、心底意地悪く、言葉で吐き捨てた。
だが彼は俺の態度を変えることなく、静かにこちらへ目を向けた。
栗色の細い髪が軽く揺れる。
「俺に姉さん取り返させて、元の鞘に納まりたい?」
俺を見つめるその淡い瞳は、彼の姉を思わせ、少し居心地が悪い。
「その算段に呼びつけたのかい? 君は……」
つい少し前まで、誰よりも愛していた、いや、未だに想いを募らせている彼女への未練を思い知らされる。
俺はそれが悔しくて、十も下の彼を睨みつける。
「アンタ、もしまだ姉ちゃん好きならさ。二度と二人には近づかないで」
「は?」
「今ここでケイ番とかメアドとか繋がりあるもの全部消して」
「いや、あの……」
「住所わかってるだろうから、姉ちゃんはよそに引越しさせる」
「なに、言って……」
「アンタがあの日、ワザとカズの店行ったの知ってんだよ」
指摘された言葉に絶句。
「けしかけたのはカズだろうけど、それにノッたアンタもアンタだ」
俺は彼の想いを甘く見ていた。
「カズは、小さい頃から株やってて、大学入る頃には三つの店持ってた。その内のひとつに姉ちゃん呼んで、決着つけたいって、シュンちゃんに言ったって」
「君は、それを聞かされたのか?」
「……」
無言は肯定を現すようで、俺は目を見開いて、あの男の強かさを改めて知らされた。
「なんて、奴だ……。君は、それでいいのか?」
「……いいよ」
「でも、彼は君の」
「カズは、はじめから姉ちゃんが好きだったし」
言葉が、これ以上でない。
「けど姉ちゃんブラコンだから、俺に目を付けたんだと思う」
「……」
「それも、はじめから分かってたし」
「それでも、君は……彼が好きなのだろう?」
「……そうだよ」
店内は徐々に人が増え始めて賑やかなのに、お互いに流れる空気だけは張り詰めていて、冷め切っている。
「アイツは、誰よりも姉ちゃん幸せに出来るから」
「コウ」
「好きな人と、大切な人が、幸せになるなら。俺はなんだってするよ」
その眼は鋭く、警告そのものだった。
「それは、また……」
俺は呆気に取られていると、彼は静かに立ち上がり、裏返しにされている伝票を取り上げた。
「俺が言いたいことは、それだけだから」
「俺が諦めないって言ったら、君はどうする?」
立ち去る彼が、途端に歩みを止める。
俺はすぐに振り返らないだろうとふんでいたが、彼はすぐ振り返り、俺に向かって指差す。
「俺が、全力でアンタをオとす」
「は?」
思いもよらない宣言。
その表情は至極マジメで、彼的には落ち度のない言葉だと思っている様だが。
「あ、そう……俺を、潰すんじゃなく」
「なっ!?」
俺はあまりの可笑しさに腹を抱えて笑ってしまった。
「な、何が可笑しいんだよ!」
「いやいや、分かった。楽しみにしているよ」
「んだよいったい!!」
「そうそう、伝票は置いていきなさい」
「断る。俺が呼びつけたんだから」
こんな時まで律儀なことを言う彼に、また笑いがこみ上げてくる。
「いい加減にしろっ!!」
「す、すまないっ、年をとると、どうも腹が緩みやすくて」
「馬鹿にしてるの」
「いや、可愛いなと」
「馬鹿にしてんじゃねぇか!!」
一向に笑いが治まらない俺に怒鳴る彼はウェイターに注意されて小さくなって必死に頭を下げた。
そんな姿すらも可笑しくて、どうもツボにハマってしまった。
(今度、彼女に連絡を入れるか。ついでにお祝いの言葉も添えて)
姉である彼女は何と言うだろう。
嫌がらせと勘違いされるかもしれない。
でも俺が本気だと気付いたら、きっと言い返せない。
「なにせ俺には、借りがあるからな」
「なに一人でぶつくさとっ」
「また怒鳴ると注意されるよ」
「誰のせいだよっ」
一先ず今日は彼を帰してあげよう。
けれど近いうちにまた、今度は俺が彼を呼びつけるだろう。
そして彼は律儀に、今日の借りを返すためにあらわれる。
そうしたら――。
「君にも俺から宣言しておくよ」
「は?」
「君を二ヶ月以内に……」
――求愛リザベーション。
それはこの瞬間に芽生えた。
「はぁっ!?」
「楽しみにしておいてね」
「アンタやっぱ頭わいてっ!!」
「お客さまっ!!」
「す、すいません!」
「あははっ……」
もうひとつの、恋の予感――。
end?
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