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【行動心理】なぜ誰も自分が金持ちだと感じないのか?

仮に、あなたが飛行機に乗っていて、添乗員さんが突然

「お客様の中に、お金持ちの方はいらっしゃいませんかー!?」

とアナウンスしたとします。

(実際にはこんなことはまぁないですが)あなたの年収が200万円であれ500万円であれ1000万円であれ、おそらくあなたは名乗り出はしないでしょう。

以下は厚生労働省のWebページより持ってきた日本の世帯所得分布です。

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中央値は427万円なので、所得順位が真ん中の世帯は427万円、すなわち、これよりあなたの所得が多ければ、あなたの所得順位は半分より上ですので、金持ち、と言っていいかもしれません。

ただ、例えば年収500万円の人が自分を金持ちと思っているかと言うと、そうでない人が多いでしょう。

これは、上方比較 (Upward Comparison)という認知バイアスによると考えられています。

上方比較 (Upward comparison)

上方比較とは、要は「自分よりお金持ちの人なんていくらでもいるから...」というような、自分の実際のステータスによらず、より上位の存在をつい意識してしまう傾向です。

「自分を他人と比較すると不幸になる」

とはよく言われる話ですが、自分を他人と比較するときの方向性が、上向きのものが上方比較です。

逆に、下向きのもの、自分より順位の低い存在を見下すような比較は、下方比較 (Downward comparison)と呼ばれます。

人間は社会的な動物であるため、「あいつはあいつ、自分は自分」と頭ではわかっていても、ついつい他人を意識してしまうものです。

自分と他人を比べることは絶対悪なのか

「自分を他人と比較すると不幸になる」とは言いつつも、必ずしも悪いことばかりではありません。

上方比較は強いストレスがかかります。「なんであいつはオレと同い年なのに年収はオレより200万も高いんだ...」などという状況はストレスフルですが、一方で、一念発起し、努力し、その人を超えることを目指す動機にもなり得ます。

これは社会にとっては都合が良く、人間は生まれながらにして上方比較をし、ストレスと戦いながらも自分を高めていくようにできています。

上方比較から真に解放されるには1番になるしかありませんが、往々にして1番になることは上方比較によるストレス以上にストレスフルであり、社会の2番以降の全ての人が上方比較のストレスに晒されていることになります。1番の人は1番であるが故の強いストレスがあるでしょう。

そのため、人はしばしば戦略的に下方比較を行います。

「まぁ言うてオレの年収は同期のあいつより高いしな...」

などと見方を変えればストレスが和らぎます。ただし、下方比較は自分を高めようとする動機付けにならず、社会としては望ましくないため、人間は、上方比較がデフォルトモードであるが、ストレス緩和のために戦略的に下方比較をする、と考えられています。

この時点でタイトルの問い「なぜ誰も自分が金持ちだと感じないのか?」の答えは、「人間は上方比較がデフォルトの生き物だから」で出ているのですが、以下個人的に面白いと思った関連事例をご紹介します。

ファーストクラスのある飛行機では乗客同士のトラブルが起きやすい

飛行機にはファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスといった区分けがある場合があります。そして、そのクラス分けが飛行機内で誰にでも見える形で綺麗に分かれて前から配置されています。

つまり、例えばエコノミークラスの乗客は、ファーストやビジネスのゆったりとした豪華なシートを横目に通路を進み、自分の狭い、心理的安全性の保たれていないシートに座るわけです。

この状況は、本来意識しなくても良い上方比較を強いる環境になっており、したがってエコノミークラスの乗客にエコノミークラス自体以上のストレスを与えます。これが、乗客同士のトラブルの起こりやすさにつながっているとする研究結果があります。

スーパースターに高額な報酬を払うこととチームの成績は関係がない

日本でもそうですが、特にアメリカだと野球やバスケなどのスーパースターには非常に高額な報酬が与えられます。ただし、このようなスーパースターへの高額報酬が必ずしもチームのパフォーマンスにいい影響を与えているわけではないということがわかっています。

野球やバスケはチームスポーツなので、勝利には個人の能力ももちろん大事ですが、チームプレーが最も大事な要素になってきます。良いチームプレーがどこから来るかと言うと、チームの雰囲気、お互いを強く信頼しているか、というところなどに由来します。

では、特定の個人が高額な報酬を得ており、チーム内の格差が著しい場合に、互いが信頼しあって互いのために全力を尽くすような、そんなチームプレーが可能でしょうか?

人間は上方比較によって強いストレスに晒される生き物なので、なかなか難しいのではないかと思います。

実際、超高額な報酬を一部のスーパースターに支払うのは、チームを勝たせるため...ではなく、話題を作り、より多くの観客に「年俸XXX億のあの選手のプレーが見たい!」と思わせて試合のチケット購入を促す目的があるようです。

社会の経済的不平等さは殺人率と高い相関

先進国における殺人率は、その社会の経済的不平等さと強い相関があることが知られています。

大統領選以降、「アメリカ治安悪すぎじゃね?」と感じる日本人の方は多いと思いますが、アメリカは先進国の中でも格差の大きい国です。全資産の84%を上20%の金持ちが所有しており、下20%の貧困層が所有している資産は全体の0.1%に過ぎません。

こうした社会では、貧困層は上方比較由来の非常に強いストレスを感じることになります。

富の独占が進み、格差が固定化されるほど、強いストレスを感じる貧困層が社会に占める割合が上がっていきます。

生まれなど、自分ではどうしようもない理由で貧困層から抜け出せないことが確定してしまうほど格差の固定が見える社会ですと、「よーっし、がんばってあいつを超えてやるぞ!」といった上方比較の唯一の利点である克己心を持つこと自体が無駄に思え、ただストレスだけを感じる人々で社会が溢れることになります。

ストレスはまともな思考を奪うので、こうした社会での治安の悪化は避けられません。

昨今、日本における格差の固定化が進んできています。増加する外国人が日本人と同等の扱いを受けられない場面も多くあるようです。極端に経済的不平等な社会は、結局誰も幸せになれない社会だ、ということは、特に忘れない方が良いかもしれません。

引用

21年調査:所得の分布状況(厚生労働省)

Unruly plane passengers: Why first class passengers are the real reason for air rage

Extreme Wages, Performance, and Superstars in a Market for Footballers

Income Inequality’s Most Disturbing Side Effect: Homicide

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