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【日記】2021/09/24 『羊文学Tour2021"Hidden Place"』(配信)

9月24日、USEN STUDIO COASTで開催された『羊文学 Tour2021"Hidden Place"』のツアーファイナルを配信で観ました。

昨年8月のメジャーデビューし、同年12月に発売されたアルバム『POWERS』をひっさげた東名阪を回るツアーは、本来ならば今年の1月から2月にかけて開催される予定だったが、緊急事態宣言の発令により、約7ヶ月遅れでの開催に。しかし、ツアーが延期になっても彼女たちの活動の足は止まることなく、7月にはアニメ映画主題歌を書き下ろし(「マヨイガ」)配信リリース、同曲も収録されているEP『love you』が8月には発売され、また「フジロックフェスティバル’21」のステージに立ったことも記憶に新しいと思う。それは、素人目でも、想像以上の目まぐるしく日々を過ごしていたと私は簡単に想像がついた。実際「音楽と人」9月号のインタビューを読んだら、Vo&Gtのモエカさん(塩澤モエカ)はかなりのお疲れモードだったし。

でも、いざ COASTのステージに立ち、ギターを掻き鳴らしながら力いっぱい歌い続けるモエカさんの表情は、「この苦しい日々は今日を迎えるために必要な時間だったんだ」と、どこか納得しているように見え、何だかとてもたくましかった。

観葉植物やオブジェが飾られた幻想的なステージは、まさに"Hidden Place"(=隠れ家)。そこにメンバーが現れると、アルバムの1曲目を飾る「mother」からライブはスタート。一瞬にしてドリーミーな空気感に会場を染め上げた。続いて《音楽を鳴らして 一番高い場所まで行こう》と誘うインディーズ時代の楽曲「ブレーメン」で観客の心を掴み、《嘘つくな》とパンチのあるフレーズから始まる「変身」、そして、好きな子に対する破裂しそうな想いを歌った「踊らない」とアグレッシブな曲が続いた。マスク姿の観客は声を上げることはできないが、ライブが進めば進んでいくほど、フロアの熱はぐんぐん上がっているのが画面越しからも伝わり、バンドと観客の精神的な距離感はどんどん近づいていく。

羊文学の魅力のひとつは、モエカさんの書く歌詞だろう。例えば「人間だった」の語りの部分。

東京の天気は晴れ、晴れ、雨
操作されている
デザインされた都市
デザインされる子供 

もっと便利に
もっと自由に
なにを得てなにを失ってきたのだろう 

(中略)

わたしは知っている
そしてただ見ている
人間が神に
なろうとしている                 

羊文学「人間だった」より抜粋

若ければ若いほど、かっよこくみせようとしたり、大人っぽく振舞ったりしがちだが、彼女の場合はそれが一切ない。ただ、まっすぐ、胸に抱えた疑問をぶつける。しかも、敢えて「語り」にすることで、より言葉の力強さが増し、聴いている側を圧倒させてしま。そして、もうひとつ注目したいのが、歌詞に「神」という言葉が使われていること。イントロのコーラスから溢れんばかりのホーリーな空気感が伝わってくる羊文学の代表曲「1999」でも、「神様」という言葉が出てくる。それはモエカさんがキリスト教系の学校に通っていたルーツを持つが関係しているからだろう。彼女自身、過去にとあるインタビューでこう話している。

私は幼稚園と中高がキリスト教教育の学校に通ってたんです。キリスト教徒というわけではないんですけど、毎朝聖書を読んだり、賛美歌を歌ったりして、「よりどころになるもの」をキリスト教のなかに見ていたというか。それを信じる / 信じないの問題ではなく、そういう「よりどころ」が日常生活のなかにあるのはいいことだなと思うんですよね。(CINRA.NET『羊文学・塩塚が語る、愛と許し 聴き手の「よりどころ」となる歌を』より抜粋)

(CINRA.NET『羊文学・塩塚が語る、愛と許し 聴き手の「よりどころ」となる歌を』より抜粋)

ホーリーであること。つまり「神聖さ」は羊文学の世界観を構築する重要なエレメント。それは歌詞に「神」というワードが使われているというから理由だけではなく、心の浄化作用が働くような、シューゲイザーやドリームポップを彷彿させるバンドサウンドからも感じられる。

《あいまいでいいよ 本当のことは後回しで 忘れちゃおうよ》と歌う「あいまいでいいよ」でライブ本編は終了。「あいまいでいいよ」が決して諦めや、後ろ向きな言葉ではなく「大丈夫だよ」と彼女たちからの励ましに聴こえることが不思議だった。

ところで、アルバムのタイトルである『POWERS』だが、"power"を複数形にすることによって「魔法の力」を言い表すらしい。厳しいコロナ禍を生きていくうえで、モエカさんの話した「よりどころ」となるものを探し、求め続けた人はたくさんいたと思う。逆にそういう存在・場所を失った人だってたくさんいるはずだ。しかし、この日、STUDIO COASTに集まったファンと(私のように)配信で羊文学のライブを観ていたファンは、確実に彼女たちの魔法にかけられ、間違いなく「よりどころ」を見つけられたんじゃないかと思う。

銀杏BOYSのカバー「銀河鉄道の夜」、そしてEP『love you』から「マヨイガ」と、少女から大人への成長を潔く歌い上げる「夜を越えて」と続いたアンコール3曲。それはライブのツアーのフィナーレにふさわしい、素晴らしい選曲だった。羊文学の音楽を信じる力と、表現し続けるものへの強い信念。そこから感じる神聖さ。彼女たちの音楽は、今こそもっと多くの人の心に届くべきだし、「届いて欲しい」と、ひとりファンとしても、心からそう願う夜だった。

行け、行け
その先が闇に思えようと
行け、行け
今ここにあながを信じる場所がある          

羊文学「マヨイガ」より


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