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【ディスクレビュー】2020/1/19 NICO Touches the Walls / QUIZMASTER

2019年6月5日に発売されたNICO Touches the Wallsのアルバム「QUIZMASTER」を、彼らが活動終了を発表した昨年11月15日以降、しばらく私は聴けなくなった。

理由はいくつかある。
「QUIZMASTER」が彼らの最後の作品になってしまったことや、歌詞の内容が活動休止をリンクするようなパーソナルな心情を描いた曲ばかりであること。そして、バンドストーリーを歌う曲が見当たらないことが、バンドが既に解体状態であったことを示唆しているように感じてしまうこと。

リリースされた当時は、NICO Touches the Wallsの第二章が始まったのだと大絶賛した「QUIZMASTER」。だからこそ、活動終了という事実は、このアルバムへの期待を悉く崩していった。

とは言え、悲しみに暮れ、怒り狂ったところで現実は何も変わらないことはわかってる。だから私は、精神的な疲弊を繰り返す覚悟で「QUIZMASTER」に手を伸ばし再び聴き始めるとともに、どうして彼らが活動終了に至ったのか、その道標となるものを探すべく、音楽雑誌やウェブに掲載された当時のメンバーのインタビューを読み返すようになった。

NICO Touches the Wallsは、ポップとロックの架け橋のようなバンドだった。また通常のバンド編成(エレクトリック編成)だけではなくアコースティックにも力を入れ、積極的にライヴや音源制作にも取り組んでいた。

原曲をそのまま演奏することよりも、多彩なアレンジを加えたがる変り者のロックバンドだったが、逆にどんなジャンルにも対応できる自由なロックバンドへと進化を遂げた。

そして、Vo&Gtの光村龍哉は「もっと音楽で遊びましょう!」とか「音楽の上では何をやったって自由だぜ!」とステージ上で叫ぶようになった。潔いその姿を目の当たりにすると、思わず拳を上げたくなるほど私は高揚したものだ。

一方で「NICO Touches the Walls=(イコール)自由な音楽性」というイメージを定着させるために、日々もがいていたとも考えられる。ファンからしたら「これが個性だから」と理解できても、彼らの楽曲は幅が広くバラエティに富んでいることは、バンドのイメージが固定化されない理由にもなりうる。実際に、新譜がリリースされバンドのモードが一新するたびに、ファンの入れ替わりは起きていた。 

冷静に考えてみると、彼らがやりたい方向に突き進めば進むほど、この問題は深刻化していたのかもしれないし、さすがにメンバーだって気付いていたと思う。

しかし、現実的にこのような事態が起きていたとはいえ、「QUIZMASTER」というアルバムは、間違いなく彼らの15年間に及ぶキャリアの集大成であり、さらにブラッシュアップさせた作品なのだ。過去を受け入れ、過去を乗り超え、到達できた場所に立つNICO Touches the Wallsには、キャリアにふさわしい余裕と、肩肘張らない身軽さが備わっていた。

収録曲のジャンルはバラバラで、親しみやすさよりもマニアックさが上回っているが、光村の作るメロディは相変わらず耳馴染みが良く、オルタナティブな姿勢をを取りながらもポップを追求してきた意地が見える。

また、特筆すべきは、意図的に音数を減らしてレコーディングした結果、楽器の音の存在感をダイレクトに感じられるサウンドになっていること。しかも全曲新曲であり、同曲の(もちろん通常盤とは違うアレンジの)アコースティックアルバムまで付けた、最近では珍しい2枚組のオリジナルアルバムになっている。

NICO Touches the Wallsのラストライヴは、2019年8月31日に開催された「SWEET LOVE SHOWER 2019」。昨年末、スペースシャワーTVで放送されたこのライブ映像を私は観たが、光村がMC中に話した「QUIZMASTER」への思いを忘れることができない。

彼はこのようなことを話したのだ。「シングル曲をアルバムに入れないことに対し、大人の事情による(売り上げに関係するため)反対意見もあった。でも、いつかこういうアルバムを作ってみたかった」と。

私は嬉しかった。シングル曲が入れば、それなりに売り上げには響いたのかもしれない。でも、それを断ってまでも、彼らが自分たちの意思を貫いた事実と、そこか見える音楽に対する愛と希望に。同時に、音楽を取り巻くものへの失望を感じざるを得なかった。もちろん、音楽で生計を立てる人間が、綺麗ごとばかりを言っていられないことなんて、音楽に関わる仕事をしていない私ですら十分理解している。だからこそ私はとても悲しくなったのだ。彼らがその意志を貫くことができたのは「QUIZMASTER」が最後のアルバムになることが既に決まっていたからだ、と気付いてしまったから。

しかし、なぜフェスという大多数の音楽リスナーが集まる場所で、光村はわざわざその事実を話したのだろう?もう二度と人前で、NICO Touches the Wallsとして、ステージに立つことはないと決まっていたから?つまり、これが最後だったから?

「どうして夢を見るの?」と、問いかける”18?”で終わった彼らのラストステージだったが、どうして人は夢を見るのか光村にこそ私は問いたくなった。

2004年7月にバンドを結成し、2006年11月のメジャーデビュー以降、彼らはたくさんの夢を叶えてきたはず。でも、私は彼らが夢を叶え切ったバンドだったとは未だに思っていない。このバンドには、まだまだやれることは確実にあったはずだ。

「QUIZMASTER」は、NICO Touches the Walls が音楽オタクで研究者気質を持つバンドだからこそ完成できたアルバムである。シングル曲を入れていないだけではなく、全曲、流行りのバンドサウンドでもない。前作「TWISTER-EP-」に収録されている”VIBRIO VULNIFICUS”ぐらいぶっとんだ曲が1曲でも入っていたら、アルバムの印象は違ったのかもしれないが、敢えてそれは避けたような感じもする。

「QUIZMASTER」はどちらかというと、オールドスクールな音楽の趣味が反映された楽曲が揃っている。飽きることなく、誰もがずっと聴き続けることができるような、いわゆる名盤と呼ばれるものをとうとう生み出したかのような、ファンとしては胸を張って人に勧めたいアルバム。でも、言葉を変えたら「なんだか、おじさんくさい」なんて声も聞こえてきそうな、人によっては取っつきにくいアルバムなのかもしれない。

それでも、もし、この文章を読んで「QUIZMASTER」を聴いてみようかな?という気持ちが少しでも湧いてきた人がいるのなら、覚えていて欲しいのだ。「ホログラム」や「手をたたけ」等、数々のテレビアニメやCMのタイアップソングを作り上げ、日本武道館や大阪城ホールといった大舞台でもワンマンライヴを行い、それなりの知名度があったNICO Touches the Walls というロックバンドが、一般ウケを狙わず、音楽への愛情のみで作り上げたアルバムを出したということを。そして、これが一体何を意味するのかを、考えてみて欲しいのだ。

「QUIZMASTER」は間違いなく、NICO Touches the Walls がNICO Touches the Wallsを(そして彼らの音楽を愛していた全ての人達のことを)信じていたからこそできたアルバムだ。

私は、このアルバムを初めて聴いたとき、NICO Touches the Walls らしさは光村の歌だと思ったし、今でもそう思っている。そして、彼を誰よりも理解し、信じてきたメンバーであるGt.古村大介、Ba.坂倉心悟、Dr.対馬祥太郎がいるからこそ、彼の頭に描かれた設計図は音楽になり、このバンドは成立した。

「QUIZMASTER」には、この4人でしか作り上げられないグルーヴも、起こせないバンドマジックも、歌詞にはないけどサウンドから伝わるバンドのストーリーが描かれているのだ。

とは言えバンドは活動終了しているから、何をどう言っても信憑性には明らかに欠けてしまうし、実際のところ、メンバーが活動終了について何の言及していないから、「QUIZMASTER」が活動終了と関係しているのかなんてわからない。結局、この文章は、ただのファンの戯言に過ぎない。でも、SLSのステージであんなこと言ったら、会場の空気は悪くなるに決まっている…にも関わらず、バンド最後の晴れ舞台で、光村があの真実を話したことだけは、私の心に引っかかったままだ。

私が、あの最後のライヴ映像を見て思ったのは、彼はずっと中指を立てながら、純粋に自分のバンドを信じていて、音楽を愛し続けているミュージシャンなのだな、ということ。

そして、そんな彼のいるバンド、NICO Touches the Walls が作る音楽を、私はたまたま好きになった。ホントそれだけのことなのに、何一つ間違っていないということ。だって「QUIZMASTER」を聴けば、いつだって「そうだよ」とNICO Touches the Walls が証明してくれるから。

私にある、音楽を取り巻くものへの失望は消えたわけではない。逆にもっと考えていかなければならないと思った。今は、スマホひとつあれば、いつでもどこでも簡単に音楽を聴ける時代。でも、このあまりに便利すぎる環境にいるからこそ、忘れてはならないこと、見逃してはいけないことがあるのだ、ということを常に心に置いておきたい。

私は、普段耳にしている音楽を、適当に聴き流すのではなく、真正面から向き合い、全力で愛していきたい。そして、一人の音楽リスナーとして、新たな音楽の世界への旅を始めていこうと思う。

大好きなバンドの活動終了は、私の中にある音楽への愛に気付かせてくれた。


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