Where is ”Walls”...?
書くか、書くまいかと、しばらく迷っていたのですが、やっぱり書いてみることに。あのバンドのことです。さすがにちょっとしつこいですかね?でも、少しばかりおつきあい下さい。
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NICO Touches the Wallsがバンド活動の終了を発表してから、今月の15日で半年が過ぎた。けれど、その当日を迎えた私としては、すでに2年近く経ったような時間感覚だった。理由はいろいろあるけれど、確実なものとしてふたつだけ挙げてみると、ひとつはコロナによって生活が一変したことで、もうひとつはVo&Gt光村氏の路上ライブ。
バンドを辞めた彼に音楽を続ける意志があったとしても、お客さんの前に出てきてくれるまでは、最低1年はかかるだろうと覚悟していた。それだけに、準備運動期間とは言え「表に出てくるのは早い」と感じてしまい、彼の始めたことに対して、私は全く明るくはなれなかった。
でも、「どんなことをやりだしたのか?」という興味だけはあって、たまたまタイミングが合う日にライブを観に行ったのだ。そして、実際に観て実感したのは、やっぱり私は彼の才能に惚れ込んでいて、彼の歌声が好きだという事実…。まぁ矛盾しているけれど、応援したい気持ちには素直に従うことにした。が、彼個人の活動とバンドに対しての思いは、私の場合全くの別物らしい。
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仕事も私生活もボロボロで、すがるように音楽を聴き漁っていた頃、私はたまたまニコのライブを観た。そしたら、ふとシンパシーを感じる瞬間が訪れて、音源を聴いてみることにしたのだ。
それからバンドが活動終了するまでの7年間、彼らには色々な出来事が起きた。そして、その7年の間には私自身にも色々なことが起きた。だから、2019年を迎えた頃には、一度彼らを追う速度を緩めようと決めていた。その年の全国ツアー(結果的にバンドとしての最後の全国ツアー)には初日しか行かなかったし、彼らの出演するフェスも観に行かなかった。何も知らない私は、いずれまた波長が合うタイミングが来るだろうと、安易に考えていたのである。
ツアーが後半に差し掛かった頃にリリースされたアルバム『QUIZMASTER』は、私の期待を遥かに上回る大傑作だった。ジャンルの壁をなくすことを何年もかけて突き詰めてきたことが、ようやくひとつの形にできた事実は、ただただ素直に感動した。妙に暗い内容の歌詞ばかりが揃っていたことは気にはなったけど、それだけ自分の内面を表現することに恐れがなくなったのだと感じ、私には今までにない手応えがあった。
なのに、蓋を開けてみたらこれがバンドの最後のアルバムだったなんて。最後だから本当にやりたいこと貫けたのかな?と思うとやるせない。
『QUIZMASTER』を手にした私は、これは間違いなくバンド史上最強の大傑作で、ここから彼らの第二章が始まるものだと信じ込んでいた。けれど、実際はそうじゃなかった。活動終了の発表から時間が経つにつれて、バンドと、バンドを取り巻く環境について客観的に捉えられるようになると、やはりニコファン以外の音楽ファンにはイマイチ広がらなかったのだと感じざるを得なかった。意図的にシングル曲を入れなかったこともあるが、バンドに「これ!」というわかりやすさがなかったことが、良くも悪くも弱点だったのだろう。
また、路上で歌い始めた光村さんを見ていたら、『QUIZMASTER』のみならずバンドの全楽曲の作詞作曲をほとんどひとりで担っていた責任が、相当なものだったこともわかってしまう。大衆的なポップソングもオルタナティブなロックナンバーも作れる彼は、期待に応えようとすればするほど、それなりにできてしまうがために苦しんできたのだろう。
ただ、外からはどんなに順調に見えるバンドだって、それなりの事情を抱えているはずだし、今さら原因探しをしたって彼らの活動終了は撤回できない。ここまできたら、一体いつになるかわからないけれど、メンバーの誰かがそのうち話してくれる時を待つしかない。そして、もしバンドが再開することになったとしても、メンバー4人それぞれが別の場所で何かを確実に得てからじゃないと、私は喜べないどころか怒ると思う。先のことは何も決めずにバンドを終わらせた感は否めないけれど、取り残された立場にいる私からしたら、違う姿を観ることでその決断に納得したいという気持ちもある。
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私にとってNICO Touches the Wallsというバンドは、何度目かの青春だった。リアルな青春時代はとうに経験済みでそろそろ成熟しなければ人間が、10代のように熱く胸を焦がしたロックバンドに出会えたことは、本当に幸運だった。「あなたたちがいなければ乗り越えられなかったこと、いくつもあるよ」とメンバーに面と向かって伝えたら、引かれそうだから言わない….けれど、これはまがいない事実。
しかし、青春はいつまでも続かない。飛びたい方に走り出したくなったら、別れ告げて新たな目的地に歩み出さなければならない。そして、人生は充実していく。私たちは大人になっていく。だからこそメンバーには、音楽を続けても続けなくてもいいから、バンドを終わらせたことを後悔しないような道を突き進んで行って欲しい。私には他にも好きなバンドはいくつもあるけれど、彼らの代わりになるバンドに出会える自信は正直ない。それくらいとても大きな存在だったから。
NICO Touches the Wallsの終わりと共に、7年に渡る私のひとつの時代が終わった。そう認めることにした。認めることは、悲しくも辛くもなんともない。正直、認めたほうが気持ちが楽になった。今の私は彼らのパフォーマンスを観てきた時間と観ていた自分を否定したくないし、否定させられてしまうような出来事が起こらないで欲しいだけだ。
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