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【再掲:ライヴレポート】2015/09/12 GRAPEVINE@日比谷野外大音楽堂

(個人ブログに上げていたライヴレポートになります。せっかくなので上げます。)

数日前の大雨が嘘のような晴天に恵まれ、会場に到着するとセミの大合唱が私を迎えた9月12日。6年ぶりのGRAPEVIVE、日比谷野外大音楽堂ワンマンライヴが開催された。

最新アルバム『Burning tree』の1曲目を飾る“Big tree song”で、ライヴの幕は上がり、“放浪フリーク”、“真昼の子供たち”と続けば、いつになく優しい空気が会場には広がっていく。オーディエンスを見渡しながらにこやかに歌う田中和将(Vo&G)を観ていると、自然と微笑み返したくなるほどの幸福感で胸がいっぱいに。そして、亀井亨(Dr)が力強くドラムを叩き出し、西川弘剛(G)が眩い光のようなギターを鳴らし始めると、バンドのギアが切り替わったことがわかる。4曲目は“Glare”。<たかが満ち足りた世界で/胸がいっぱいになって/見たろ光を/走り出したくなって正解だ>と精いっぱい歌い上げる田中の声は「今を生きたい」というひたむきな意志が強く感じられるものだった。そんな彼の背中を押すように、生命力溢れるバンドサウンドが会場一帯を飲み込んでしまえば、ライヴはまだ始まったばかりだというのに私の涙が止まらない。しかし、強烈な余韻を残しながらも、奇天烈なギターリフを皮切りに始まった“コヨーテ”がブルージーな世界へと導き、金戸覚(B)の低音が炸裂する“冥王星”で客席は再び熱を帯びていく。そこにノスタルジックな風を呼び込んだのは1997年リリースの1st Single“そら”。色褪せるものなど見当たらない。彼らの軌跡を感じさせるどっしりとした演奏だった。

さてMCでは、曲の合間にビールを飲む手が止まらない田中が「飲めよ飲めよ」と言わんばかりに「売店の閉店時間が19時半まで」とご丁寧に何度もアナウンス。彼が一通り話し終えるとメンバー各々体制を整えバンドは演奏をスタートすると、先ほどまでとは別人のように真摯な眼差しで田中は歌い始めるのである。この、あまりに大らかにステージを進めるその様子には貫録を感じざるを得ない…(笑)。例えば自身の生き様やロックバンドの在り方をMCで語り始めるバンドマンは多いが、GRAPEVINEの場合はそれは皆無。彼らの抱える情熱は、目の前で鳴らされるサウンドや田中の歌声から伝わってくるのである。それが顕著に表れていたのは、”無心の歌”から始まったディープゾーンで中でも“SEA”は圧巻だった。重みのある鍵盤を高野勲(Key)が奏で、ゆったりとした波のようなアンサンブルが続く。冷めた表情で淡々と田中は歌い、どことなく漂う緊迫感に催眠術にかけられたかのように、私の体は硬直し始める。5人で紡ぎ出す音の引力により心が蝕まれていくようで、曲が終わってからも平常心を取り戻すのには、しばらく時間が必要だった。だから、きっと体内にアルコールを入れつつ、緩めのMCを挟んだほうが、メンバーもオーディエンスも精神的に楽なのかもしれない。「どうぞ皆さんご自由に今日のライヴをお楽しみ下さいね」ーーこれがGRAPEVINEお決まり(暗黙の了解に近い)ライヴスタイルで、オーディエンスの様子も自由。立って観ている人はもちろん、座って観ている人もチラホラいる。

「日比谷に捧げる”This town”!」

お馴染みの前振りから始まった後半戦は、夏の暑さを取り戻したこの日のための“夏の逆襲“から”KOL”、“ GRAVEYARD”と畳み掛ける。そこにストンと落とし込んで来たのがPermanents(田中の高野のユニット)では最近では良く耳にしていた“smalltown,superhero”。田中の少年時代を歌う曲ではあるが、緻密なアンサンブルに乗る歌声には、現在の父親としての表情を覗かせていたような気がした。そして、本編ラストは“超える″。バンドの生き様をまじまじと見せつけるかの如くダイナミックなサウンドが大都会の夜空に響き渡る中、<今限界を超える/そのくらい言って良いか>とガツンと田中が歌い決めた最後のサビを耳にした瞬間、私は彼らのことを心から誇らしく思った。

私がロックバンドに興味を持ち始めGRAPEVINEと出会ったのは10代後半。以来、私の人生の節目には必ず彼らの音が隣りで鳴っていてる。しかも、思い返せばGRAPEVINEと同時期に出会い、好きで聴いていたバンドのいくつもあったのに、ほとんどが今では解散をしている。そんな事実を思うと、私が今この場所にいることは奇跡のようなものだ。自らの音楽性に使命感を持ち、着実にバンドの可能性を広げながら、天邪鬼な姿勢を貫き続けるGRAPEVINEは、メジャーデビューから18年間、時に荒波に揉まれながらも一度も足を止めることなく続いている。それを確信づけるかのように<今限界を超える/そのくらい言って良いか>と歌う姿は、あまりに格好良すぎないか。

目から涙はこぼれなかった。しかし、私は胸の高まりを抑えることができなくなっていた。

温かな拍手に迎えられ再びステージに登場したメンバー。すると聴き覚えのあるベースラインにふわりと歓声が上がった。アンコールの1曲目は“君を待つ間”。離れて暮らす恋人に向けた苦くも瑞々しい想いを、酸いも甘いも知ってしまった四十路を越えた主人公が当時を懐かしむよう歌う姿は、オーディエンスの恋の古傷にも、ちくりと沁みるものがあるのではないか?しかし次の“RAKUEN“で見せたものは、歳を重ね背負わざるを得ない代償をシリアスなロックンロールで提示する姿だった。そしてラストは“ふれていたい”。これが、最大級の多幸感に包まれた、限りなく優しいエンディングだったのだ。

私が初めて観に行ったGRAPEVINEのライヴには、今のような緩さはなく、フロアから黄色い声が上がっても、メンバーはどこか素っ気なかった。しかし、メンバーも歳を重ね、彼らを聴き続けてきたオーディエンスも同じ年数歳を取った。それを互いに確かめ合えたからこそ、緩さの中にも身をわきまえた心地よいグルーヴが、日比谷野外大音楽堂には溢れていた。「ファンと共にこの時まで歩いて来た」という想いが彼らにあるのならば、それがGRAPEVINEにしか鳴らせない「優しさ」なのだと思う。「みんなで同じ方向を向かない(BY 田中)」バンドがGRAPEVINEである。しかし、サビの<ふれてイエーいよう!>の部分では自然と沢山の腕が上がっていて、オーディエンスの想いに全力で応えるように、笑顔で歌い続ける田中を観ていたら、そう信じずにはいられなかった。


SET LIST
1 Big tree song
2 放浪フリーク
3 真昼の子供たち
4 Glare
5 コヨーテ
6 冥王星
7 そら
8 無心の歌
9 MAWATA
10 おそれ
11 壁の星
12 SEA
13 愁眠
14 This town
15 夏の逆襲
16 KOL
17 GRAVEYARD
18 smalltown,superhero
19 超える

ENCORE
1 君を待つ間
2 RAKUEN
3 ふれていたい

(2015年10月24日)



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