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People who look good with tea time and sugar.

「ごゆっくり」
友人達との間で噂になっていた食事処。花がそのまま砂糖漬けになっている花砂糖が話題になっていたそのお店は、思ったよりも落ち着いた空間だった。店主は落ち着いた物腰の男性で、今も私達の間にお皿とカップを置くと、言葉少なにゆったりと去っていく。
思ったよりも大人っぽいですね、なんて。目の前の大人の男性に同意は求められなかった。
「……思ってたのと違うな」
ぽつり。思わず、と言った様子でニールさんが言葉をこぼす。その台詞に私はお皿から顔を上げた。ニールさんの顔をまじまじと見る。
私の視線に気付くと、弁解するように顔の前で手を振った。
「いや、女性に人気だと聞いたから。もっとにぎやかな所かと思っていたんだ。落ち着いた空気だね」
「…あの、私もそう思ってて」
おずおずと切り出せば、ニールさんは安心したように笑った。三日月型に細まる目。
「気が合うね。…いただこうか」
「はい」
花砂糖が主役のようにあしらわれているケーキ。ためらいながらもフォークを一刺しすれば、ふわりとスポンジがやわらかく沈んで。感触からして美味しそうで、つい頬を緩める。
そのまま口に含めば、僅かな花の香りと甘い生クリームが口いっぱいに広がった。
「〜〜〜っ」
「はは、美味しいみたいだな」
「!」
ニールさんの言葉と笑顔で我に返る。ケーキを堪能している場合ではなかった。
慌ててフォークを置いて、ティーカップを手に取る。話をするには、口の中を空にしなければ。ケーキを流し込もうと手に取ったはいいものの、それは目の前の人の素振りでやんわりと止められた。
「慌てなくてもいいよ。ケーキはゆっくり食べていい。それからでも遅くないだろう」
「……ありがとうございます」
ティーカップを両手で持ったまま、その水面を見つめる。
姉の婚約者。誰の指示でもなく、私はこの人の真意を確かめるために来た。
姉と違う未来を見ている。では、彼は自分の望む未来と姉の願いが違う方向を向いたら、どうするのだろうか。
底知れない真意と姉の笑顔がバラバラに浮かんで。私は不安と一緒に紅茶を飲み下した。

(いいわけ)876字。姉の婚約者と成り行きでお茶をすることになった妹。この二人の間に色恋も特別もない。

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