魔法の効果範囲の話

「ヴィー」
「なに?」
仕留めた獲物を解体し、充分な処理をした後どうぐ袋に収納した二人は、木々を掻き分けて迷いない足取りで進んでいた。
「さっきの魔法はなんだ?」
「睡眠魔法の応用かな。矢尻が動物に触れた時に発動するようにしたの。範囲は、私の腕の長さより少し広いくらい」
「…この前みたいな呪いじゃないんだな」
「うっ……そ、そこそこ強力なものだから、あまり使わないことにしたの。前みたいに事故が起こってもよくないし」
魔力や他の物質を使って、それぞれの条件を満たした場合に発動する、時限式の攻撃魔法。それが呪いだ。広義においては魔法に分類される。
呪いは弓使いであるヴィーととかく相性が良かった。もちろん難点はいくつかある。条件を満たせなかった場合は術の威力が弱まったり、時限式であるが故に相手に利用されてしまったり反撃の機会を与えてしまったりなどがいい例だ。
発動条件は術者の裁量で完全にではないがある程度決められる。ヴィーは自身が扱う条件を絞ることによって、何とか制御できていた。
しかし、呪いは新しく習得した時に事故が起こりやすい。二人の言う事故とは、ヴィーが新しく習得した呪いを試した時に、アレックスが被害に遭った時のことだった。
「…ごめんなさい、アレックス。まだ怒ってる?」
「怒ってない。お前に分け与えなかったから、きっとバチが当たったんだな」
珍しく口角を上げて微笑む男に、少女は自身が謝っていたことを一瞬忘れて見惚れた。男の言葉は続く。
「せっかく美味い獣の心臓だったのに」
「……私が断ったんだから、あなたは悪くないのよ」
そう精一杯絞り出して、アレックスの惚けた顔に何とも言えない気持ちを飲み込む。肝や血を食べる趣味は無いのだと、面と向かっては言えなかった。
失敗した呪いの条件は『対象の魔物と同じ心臓を持つ者が数時間痛みに苦しむ』。けれどまさか、前日の夕食に食べた心臓まで対象になるとは思わなかったのだ。

(いいわけ)815字。一緒にいても、食べているものは全然違ったり。アレックスが笑うのは貴重。

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