もしもを渡って会いに来て

「ヴィー、待たせたな。……ヴィー?」
店から出てきた青年がそう声をかけると、ヴィーと呼ばれた少女は弾かれたように顔を上げた。
「おかえりなさい、アレックス。売り付けはどうだった?」
「悪くなかった。希少な素材も良い値で買い取ってもらえたぞ」
それは良かった、と少女は嬉しそうに微笑む。その顔を見て、アレックスはやや躊躇ってから、やはり口に出すことにした。
「……何かあったか?」
アレックスの言葉に、目を見張る。それから瞬きを一つ。それらを経てこぼされた笑みは、諦めと降参を交えた少しの影があるものだった。
「…何もないよ。ただ……」
「…ただ?」
ヴィーは街の通りを見つめた。故郷からは遠い場所。村を離れたことは後悔していない。それでも。
「私が町娘だったら、もっと何か変わっていたかなって。そんなことを考えていたの」
「………」
アレックスは返答に窮した。
彼は仮定の話を考えたことがない。もし、例えば。そんなことを考えても空想の世界には渡れないし、時間も巻き戻らない。
けれども、それを思う人の心を大事にしたいとは思っていた。それが小さな身で共に旅をする相棒の心なら尚更。
「…よく、分からないが」
「……」
「今のお前と一緒に旅をできて、嬉しいと思ってるよ。ヴィヴィアン」
アレックスの顔がぎこちなく歪む。くしゃりと歪む、精一杯の笑顔。
触れた小さな頭が下を向いた。いつものように撫で回してやれば、華奢な肩が僅かに震えている。…励ましたつもりだったのに、泣いているのだろうか。アレックスの眉間に皺が寄る。
「ヴィ──「…っふふ、あははは!」
街の通りにヴィーの笑い声が響いた。街の人間はちらちらと二人を見ているが、一番驚いているのはアレックスだ。目を軽く開いた後、やや剣呑な目つきに変わる。
「…ヴィー?」
「…っ…ご、ごめんなさいね! あなたの顔がっ…あんまり不格好に笑うから…!」
「…心配したんだが」
「分かってるわ! 落ち着くから待ってちょうだい…!」
とりあえず今はその顔見せないで、笑っちゃうから。散々な返答を受け取り、彼は珍しくため息をついた。それでも少女の言葉に従って背を向ける辺り、彼は相棒に対して甘いのだった。

(いいわけ)919字。もしもは現在の否定にも繋がるからあまり考えないアレックスと、憧れが散らばるからもしもを考えずにはいられないヴィー達の話。

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