自由の先は無い、それでも自由でいたい。

「『冒険者なんて先のないこと、いつまで続けているの?』」
セルマは隣の相棒をちらりと見た。
反応が欲しくて放った言葉だったが、興味もなさげに眠そうな目ではあ、と気のない言葉が返ってきただけだった。
「…って、言われたんですけど。どう思います?」
「さっきの街ですか」
「そう。宿泊客に」
「言ってくれれば殴りましたのに」
淡々と物騒な言葉を返してくるカーティスに、怒ってはいないと首を振るセルマ。
カーティス自身は怒ることがめったにないが、人の怒りの波動には何故か共感能力がよくはたらく。怒っていないと否定したものの、セルマ自身、どこかむっとしていたのも確かだった。
「それで、どうです?」
「…いきなり顔面にねこじゃらし投げつけられた気分です」
「その心は?」
「痛くはないけど痒いし、投げつけられたそれで意地悪がしたくなる感じかと」
セルマは納得しかけて、やっぱり分からないと首を振った。何故ねこじゃらし。
「……先のある職業なんてあるんですかね」
呟くカーティスをセルマは横目で見た。促すような視線には気付かず、青年は一人で話し始める。
「先が無いから、俺達は思い思いに生きるんでしょう。自分の思う通りに生きられない人間なんて知ったことか」
吐き捨てるその姿に、存外カーティスが怒りを感じていることを知る。青を写した黒目が不愉快だと言わんばかりに細まった。
「…私にそう言ってきた人は、不自由な人だったのかしら」
「そうでしょう。現状に満足している人間ほど、人のことなんか気にならないものです」
「……あなたは時々、この世の全てを悟ったようなことを言いますね」
「それはそうでしょう。俺はこれで、何でも受け止めますから」
背中からはみ出ている大盾を小突く。セルマは呆れたように笑った。
「防ぐのと、受け止めるのは別の話でしょう」
「分かってないですね、セルマ。割と似てるんですよ、その二つも」

(いいわけ)799字。今日も雑。しかし字数は一番収められたと思います。

お菓子一つ分くれたら嬉しいです。