雨夜に君がいるところ。

「…そろそろ大きな木を探そう」
「木?」
森の探索途中、頃合いを見計らった口調で提案したアレックスに、ヴィーは瞬きをした。朝方、出発する時に言っていたことを思い出す。
「ああ…今日は雨が降るって言ってたわね」
「そうだ。それから、今日の夕食はスープにしよう。手伝ってくれるか?」
「それはもちろん!」
任せて、と胸を張るヴィーにアレックスは頷く。
塩とハーブはまだ残っていた。生憎と食材は干し肉とかたいパンしかないが、腹を満たすだけならそれで充分だ。
「でも珍しいわね。スープなんて魔物から肉が取れた時だけじゃない」
首を傾げる少女に、アレックスは穏やかに頷いてみせる。
「雨だからな」
「雨だと贅沢していいの?」
「いいんだ」
今日の夜になったら分かる。そう返されたヴィーは、釈然としないながらも今晩の寝床を探し始めた。

「ヴィー」
「なあに?」
「寒くないか」
お互いの顔もろくに見えない、真っ黒に塗り潰された夜。二人は大樹の根本に背を預け、足先を焚き火の跡に向けていた。遠くで鳴く鳥の声を聞きながら小声で言葉を交わす。
「大丈夫よ」
「そうか」
「ええ」
「……ヴィー」
「なに?」
「今日のスープ、美味かったな」
しみじみと呟く男の低い声に、ヴィーは少しだけ笑った。声なき微笑みは彼には見えないだろうが、それでも口元を覆い隠す。
「そうね。…今日貴方が言ってたこと、分かったわ」
「…雨の日は豪華にした方がいいだろう?」
わずかに得意気な声音が返ってきて、またそれがヴィーの笑みを深くさせた。
「うん。これからもそうしましょ」
「ああ」
寒さは人を惨めにさせる。自然の厳しさに、それを凌げない状況に。無力であることを知らしめる。
だからこそそれ以外のことは満たされていなければいけない。孤独を埋めて、腹を満たして。一人ではなく仲間がいると。目を閉じてもまた目覚めて朝が来ると。
そう、アレックスは確認したかったのだ。

(いいわけ)813字。アレックスの過去匂わせしたかった。

お菓子一つ分くれたら嬉しいです。