見出し画像

依頼受注のコツの話

「……まだかかるか」
「あとちょっと」
王宮直属案内所の掲示板前。情報量の多さから何かと便利な場所であるここはいつでも人は多いが、他人の視線など意に介さずに少女は立ち止まって掲示物を見比べていた。
その背中を守るように大柄の男が立っているものだから、彼より小柄な者はおいそれと近付けない。男に威嚇のつもりが無かったとしてもだ。
「…決めた。アレックス」
「どれだ」
少女にアレックスと呼ばれた男が背を丸めて応える。距離感や慣れた仕草から、二人は長く付き合いのあるパートナーであることが伺えた。
「これかこれにしようと思ってるんだけど、どっちがいいと思う?」
差し出された紙をアレックスが受け取る。どちらも討伐募集の案内だった。片方は易しい難易度の魔物だが大量討伐、もう片方はそこそこの難易度だが数匹程度で済む。
アレックスは無言で少女を見下ろした。
難易度の判断はあくまでアレックス基準だ。少女の力量からすれば後者の依頼は単独でぎりぎりこなせるかこなせないか。無理をせずに二日に分けて討伐を行えば確実に達成はできるだろう。相変わらず見極めは上手いな、と男は感心した。
「……何よ」
「決めたんじゃなかったのか」
「ぐっ…だってどっちの報酬も捨てがたいんだもの! むしろここまで絞ったことを褒めてほしいわ」
「そうか。えらいな」
「! ええ、ありがとう!」
褒められると素直に喜ぶのは少女の美点だ。花が咲いたように喜ぶ顔に、頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「どちらも受注できないか相談してみよう。受付に行くぞ」
「え?! そんな欲張らなくても…」
「どのみち、あの掲示板から外したら受注するのがここの原則だ」
そこに書いてある。掲示板の上部を指差す。少女の視界には入っていなかったのか、大きな目を更に大きくしていた。
「知らなかった……」
「初めての街だからな。……すみません、これの受付をお願いします」
「待ってアレックス! それなら大量討伐はあなたがやって!」
「わかってる」

(いいわけ)837字。大きな男と年下少女はわりと好き。二人の戦闘スペックまで辿り着かなかった。

お菓子一つ分くれたら嬉しいです。