Have a hot soup.

宮殿の広い廊下、その片隅をアイシャは忙しなく歩いていた。片腕に資料の束を抱えながら、疲労が滲み出た顔で突然立ち止まる。
宮の外は青空が澄み渡っており、もう数時間もすればあの太陽は夕日に変わるのだろうとアイシャはため息をついた。
その背中にのしかかる重みに、一瞬息が詰まる。
「アーイシャ。おつかれー」
「……カイラ…お疲れ様」
アイシャの返事ににんまりと笑うと、カイラは抱き着いていた身体をはなした。医療用の白い官服の裾が翻る。
「ひどい顔色。今日も夜番?」
「…そんなにひどい? さっき部下にもそう言われたの」
「死人が蘇ったのかと思うくらいには」
「……そんなになのね…」
色んな意味で頭が痛い。アイシャは利き手でこめかみを揉むが、頭はすっきりせず、ぼんやりとしたままだった。
「……今日は部下が夜番を代わってくれているから、夕方には帰れるわ」
「良い部下ちゃんがいて何より。 じゃあ今晩のご飯は私が家に作りに行ってあげちゃうね」
腕まくりをするカイラに、アイシャは身じろぎした。目が泳いでいる。
カイラのご飯は美味しい。友人である贔屓目を除いてもだ。昔は小料理屋を目指していたこともあると言うだけあって、店に並んでも遜色ない出来映えのものばかりだ。
ただ。アイシャはカイラを怒らせたくなかった。
「あの、気持ちはありがたいんだけど…今は、その……」
「なーに?」
「……怒らない?」
「…内容による」
にっこり答えるカイラに、アイシャは心の中で絶叫した。これは絶対バレてる!!
事実、カイラはアイシャの部屋に何度か足を踏み入れたこともあり、彼女が言い淀む原因もほとんど検討がついていた。このやり取りは単に、いつも凛としている彼女が慌てる姿を見たいだけだった。
覚悟を決めたアイシャが、おそるおそる申し出る。
「……あなたが綺麗にしてくれた部屋を、また汚くしている状態です…」
「あはっ。くたばれ」
「ごめんなさい!」

(いいわけ)811字。カイラちゃんは綺麗好きでお料理上手な普通の子。医療担当。

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