店先と季節の話

「…もうすっかり冬ですね」
手をすり合わせて息を吐く彼女は、どうにも寒いようでそんなことを隣で呟いた。
実際のところ、冬だと言い切るにはまだ早い。木はまだ枯れていないし、日が昇る時間はまだ遅くない。寒さに弱い彼女の冬認定が早いだけだ。
街のざわめきを遠巻きに見ながら、道の端でポツポツと言葉だけを交わす。
「冬は嫌いですか」
「…そうですね…好きではないです」
到着したばかりの街で宿もとらずにぼうっと立っているだけの状態には訳があった。俺達二人とも疲労困憊だったのだ。
相性が悪い魔物と行き遭ってしまい、仕方なく戦闘したものの、なかなか決着がつかない。
終わりの見えない耐久は厳しい。できない訳ではない。事実俺達は勝った。だが出口のない洞窟を彷徨うようなその行為は、確実に体力も気力も奪われた。
街に到着した安堵感からか、張り詰めていた気が緩まって、身体全体に疲労がのしかかっている。だがいつまでもこうしている訳にはいかない。
「セルマ、歩けますか」
「…っ、大丈夫です」
そう意地を張る彼女に合わせて、歩を進める。こののろさに合わせるのは今はなかなかきつかったが、そんなことを言ってからかう余裕は俺もなかった。
「すみません」
一つの屋台の前に到着する。店番の女性に呼びかければ、驚いた顔でこちらを見ていた。
「いらっしゃ…まあ! ひどい顔色。地べたでよければ、そこの陰で休んでいきな」
「助かります。あとそれと、スープを一つずつください」
すぐ用意するから座ってな。旅人には慣れているんだろうか。テキパキと用意する店番は頼もしかった。言葉に甘えて、二人して店の側に座り込む。
程なくして注文した料理は運ばれた。代金を渡して、二つの食べ物を受け取る。
「スープです。飲めますか」
「…ありがとうございます…」
「支えるから、一口でも飲んでください」
器の底を持って、彼女の動きに合わせる。その片手で食べ物を切り分けた。
「固形が食べられるならこれを」
「じゃがいも…?」
「はい。これが店先に並んでいるうちは、まだ秋ですよ」
「…ああ。冬はもっぱら、酒とスープですものね」
あなたが街の情緒を知っているなんて、意外です。
微笑む彼女。芋を食べて力がわいた俺は、指で彼女の額をうった。もう少し彼女が元気になったら、俺の事をなんだと思っているのか聞いてみよう。

(いいわけ)980字。割と季節認定は人によって違うけど、店先に並ぶものだと共通になりやすい話

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