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ペン先

ペン先を舐めながら
サディスティックな作家が言うには
お前が傷つくのは筋違いだ、と

切り捨ててくれれば良いのだ
恋にもなれなかった何かは
最早この季節を持て余している

なおもその作家は言う
暑さに融解する詩心には必ず
裁断を請求する機能が備わっている、と

濡れたペン先が震えている
緋色の原稿用紙が真夏の都会に
燃えている
燃えている

越えるには覚悟が必要だ
照りつける嫉妬を睨み返せ

誰が演奏しても区別がつかないのだ、と
甘く優しいギターの旋律は
猛暑に等しく否定される

ペン先に触れながら
ペシミスティックな作家は笑う
悲しみにくれるには
この夏はいささか鮮烈すぎる、と

ドラムンベースの効いた季節が
断罪以上の嗜虐をもたらす
お前が傷つくのはおこがましい、と

太陽は笑い
青年は著す
熱波に侵され
詩歌が生まれる

これ以上はもう要らないよ……

何も欲しくないのに
静寂を裂く手はいつだって
サディスティックでペシミスティック

ペン先を取り出してみれば
永い夏の夜が始まる

#詩 #現代詩 #過去作品

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