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さぁ、大会を企画しよう -コンセプトとブランディング-

大会を企画する時、最初に決めるべきことは何だと思いますか?

ルール、日程、大会タイトル、参加人数……主催者として決めなくてはならない色々な要素はたくさんありますが、まず決めるべきことは「コンセプト」です。

コンセプト(concept)とは、和訳すると「概念」「観念」という言葉になりますが、主に「全体を貫く基本的な観点」という意味で使われる言葉です。

これからコミュニティ大会の主催を始めて継続していくにあたって、活動全体を通してどのようなことを体現したいのか、ということをまずは考えましょう。これは人によって異なりますので正解・不正解はありません。

自分の場合は、前稿でも触れたように「自分が知らなかった、大会で得られた感動や興奮といった大会の醍醐味を、まだ知らない多くの人に届けたい」という思いでした。これはプレイヤーとしてだけでなく、いち視聴者としてもそうです。「あの公式大会の決勝戦、あのマップであのキャラをピックしてあの戦法で読み勝ったシーンはエグかった」というように、本当に感動して興奮した記憶は、数年前の試合の場面でも鮮明に残っています。そんなシーンを自分の大会でも作り、多くの人に同じような体験を届けたい。そのような思いでした。

これが例えば、「このゲームタイトルで一番多くの人が観るコミュニティ大会に育て、このゲームを代表するコミュニティ大会を創る」というものでもいいでしょう。「誰も考え付かないようなクセの強いニッチな大会を創ってコアなファンを得たい」という例もありです。「大会運営を通して主催者である自分の名を広めたい」という願望も立派なコンセプトです。「白熱したガチの真剣勝負」なのか「みんなでゲラゲラ笑って楽しめるエンジョイ大会」なのかといった方向性だけでも、全く異なる雰囲気の催し物になります。

大会におけるコンセプトとは、言い換えれば「大会の色」です。様々なコミュニティ大会が存在するゲームタイトルの中で自分の主催する大会をコミュニティに認知してもらうためには、少なからず独自性が必要です。まずは自分の本心を見つめ、大会主催の出発点をありのままに言語化してみましょう。

それができたら、次に行うのは大会のブランディングです。

ブランドは、「緑の銀行と言ったら三井住友」のように、他と区別される概念であり、eスポーツで言えば選手や視聴者に持たれる「イメージ」と言い換えられます。

先ほど定義したコンセプトに沿う形で、既存する他のコミュニティ大会と明確に分けて識別されるような「味付け」をしていくのです。まずは、比較的差が出やすい「グラフィックデザインの方向性」や「ルール」から設定していきましょう。

例えば、私の場合のコンセプトは先述の通り「自分が知らなかった、大会で得られた感動や興奮といった大会の醍醐味を、まだ知らない多くの人に届けたい」です。感動や興奮を生むためには、公平性が担保された緊迫した戦いの舞台が必要です。となると、「ガチの真剣勝負」がブランドのベースになります。そのため、グラフィックデザインの方向性はゲームのテーマでもある「ホラー」に「重厚感」を持たせる、ということに決めました。

重厚感を意識してデザインした第1回大会トーナメント表

ルールについては、ゲームメーカーに事前に許可を取り、初めて開催された公式大会のルールを準用しました。他に準用しているコミュニティ大会がなかったことと、「公式大会の追体験の場を提供することが、定めたコンセプトに合致する」と考えたからです。

ゲームタイトルによっては、統一ルールや実質的な業界水準といったものがあるケースもあるでしょう。それでも、細則の部分では差がつけられます。DBDのようにゲーム設計上勝ち負けがはっきり決まっていないタイトルについては、大会ルールが最も主催者の「色」が出る部分と言えます。eスポーツ大会の主催準備にあたっては、事前に公式大会や既存のコミュニティ大会のルールをリサーチし、よきものは取り入れ、差別化を図れるところではしっかり自分の色を出すことを意識してルールを策定しましょう。

ルールや大会規則を策定する上で気を付けなければならないのは、①公平性を担保すること②他大会のレギュレーションを丸々盗用しないこと――の2点です。

①については、大会規模を大きくしたいと思う主催者には必須の観点です。コミュニティ大会は個人が趣味で行うものなので、ある意味で主催者に絶対的な権力があると言えます。ルールに書いていないことが起きた際の裁定は主催者にゆだねられますし、極論、「自分が出てほしくないと思うプレイヤーは出さない」ということだってできます。それがイヤだと思う人は参加しなければいい、観なければいいからです。

しかし、「大会規模を大きくしたい」という思いがあるならば、多くの人に「参加したい」と思われる大会、「観戦したい」と思われる大会づくりが必要です。そのためには、対戦するプレイヤー両者にとって「公平であること」がきちんとルールによって担保されている必要があります。みなさんだって、明らかに片方に有利で片方には不利なルールに設定されたスポーツがあったとしても、見ていてもつまらないと思いますよね。特に不利な方が自分の「推し」のチームや選手であったら、理不尽さに不満が募り、運営に文句の一つでも言いたくなるでしょう。

結果的に、公平性に欠けた大会は周囲から信頼されず、人が集まらなくなってしまいます。「それでも自分が目指すコンセプトを実現するにはこのルールが必要だ」というのであればいいのですが、ブランディングがコンセプトから逸脱しないよう、注意してルールを策定しましょう。

②の丸々盗用については、厳に慎むようにしましょう。開催実績が多く成熟した大会ほど、ルールや大会規則は長文化していきます。なぜなら、開催ごとにルールの「穴」が見つかり、規則にないイレギュラーな展開に見舞われ、少しずつ改良されていくからです。それは主催者がトライアンドエラーで長い時間をかけて獲得した財産なのです。それをそのままコピペしてしまったり、文体を少しだけ書き換えて実質的に盗用したりしてしまうと、確実にその大会主催者からは目をつけられます。もちろん盗用は著作権法違反に当てはまりますが、法的問題だけでなく、主催者同士の横の連携が難しくなるほか、SNSでの炎上リスクが高まり、大会の信頼性そのものにも大きなリスクが生じることとなります。

ルールについては先ほど大会の「色」が出る、と述べましたが、主催者の中には「このルールは自分が最初に編み出したものだ」と自負しているものもあります。特に、その主催者のコンセプトが「他はない画期的なルールを作り上げて独自性を最重視した大会を開く」だった場合、無断盗用は大きなトラブルの元となりかねません。

トラブル回避を最優先する場合は、そのルールを策定した主催者に準用していいか相談することも視野に入れましょう。「うちの大会ルールを準用した、と表記してくれればいい」と条件付きで許可してくれる主催者もいます。最初に策定した発明者がいても既に他のコミュニティ大会でも一般化しているようなケースでは、そのまま準用してもトラブルは起きにくいでしょう。

また、大会名はブランドを象徴する「顔」とも言える存在です。ゲームメーカーが主催していると混同されかねない名称や、他のコミュニティ大会と似た名称はトラブルになる可能性がある上、差別化が図れず埋没する危険性があるので避けましょう。長いネーミングの場合は、略称も合わせて決めるとコミュニティに浸透しやすいです。大会名を決めるのはとても大事な作業ですので、運営メンバーと意見を出し合ってみんなで決めてもいいと思います。ちなみに、私の団体名(大会名)はDIC-JAPAN(ディーアイシージャパン)でした。略称はDIC(ディーアイシー)です。DICとは、Dead by Daylight Informal Championshipの頭文字をとったものでした。

グラフィックデザインとして最初に決めるものは、やはり大会ロゴでしょう。あらかじめ定めたコンセプトやブランディングの方向性を意識しながら決めていきます。自分でデザインができない方は、ココナラのようなスキルマーケットで外注するとクオリティの高い仕上がりが期待できますよ。

DICのキービジュアル。画像はAdobe stockを使用し、ロゴやキャッチコピーはPhotoshopで自作。

ロゴは一度決めたらなるべく変更しない方がよいです。せっかくコミュニティに認知されたのに、変更すると積み上げてきた認知度が半減してしまうからです。なので、大会名同様に慎重に決めましょう。ただ、これも正解がある話ではないので、いつまでも決めきれずに悩んでいては次に進めません。最後は主催者として覚悟を持って決めきりましょう。大丈夫、そのロゴや大会名を浸透させられるか否か、愛着を持ってもらえるかどうかは、その後の運営次第ですので。

グラフィックデザインでは、試合画面の枠(レイヤーデザイン)や試合と試合との間の待機画面のデザイン、得点集計や勝敗発表画面のデザインなども必要です。デザインが苦手な方は、デザインができるメンバーを勧誘してお願いするか、外注しましょう。私の場合は、主催のためにイチからPhotoshopを独学でいじり始め、今では一通り不自由なく使えるようになりました。Photoshopのようなメジャーなソフトは、わからないことはネットで検索すれば大抵答えが出てくるので、デザインにも興味がある方は併せてトライしてみると大会主催の副産物として新たなスキルが身に付けられるかもしれません。

2021年に初めて開催したDIC第1回大会の試合画面(画面上部がレイヤーデザイン)

BGMも重要な要素です。試合中はゲーム音があるので問題ありませんが、待機画面中はBGMがないと寂しいでしょう。無料素材を使ってもいいですが、オススメはAudiostockというサイトです。こちらは月額858円相当(年間一括払い)で50万点以上のBGMや効果音を利用することができます。

YouTubeでのライブ配信は、OBSという、定番の無料ソフトを使用しました。私は配信者ではなかったので、大会主催を始めようと思い立ったときに初めてOBSを触りました。同様にOBSも解説動画やネット記事が山のようにありますので、わからないことはすべて検索して問題なく使えるようになりました。

コンセプトとブランディングの準備が整ったら、いよいよ記念すべき第1回の大会日時を決め、アイキャッチ画像を作成して告知し、参加者を募りましょう!

【大会開催の告知までに最低限決めておくべきこと】
□大会コンセプト(大会開催を通じてどんなことを体現したいか)
□ブランディング(他大会との差別化の方向性)
□団体名・大会名
□団体ロゴ・大会ロゴ
□大会規則・試合ルール
□配信レイヤー(試合中画面)
□試合待機画面、BGM
□得点集計・勝敗発表画面
□第1回大会日時
□アイキャッチ画像


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