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濱田アキの文芸作品

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小説、エッセイと、インタビュー記事も含んでいます。
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記事一覧

「自分自身」と共に生きる責任 【インタビュー記事】

 合同会社うみのなか商店 卜部小夜子様(以下、ハルさん)にインタビューをさせていただいたのは2022年でした。コロナ禍をきっかけに開室した「あかり図書室」は、穏やかな中に「はじまりとこれから」を予感させる、わくわくというか、緊張というか、何とも言えない雰囲気の空間だと私は感じました。  2024年7月現在「あかり図書室」は、同ビル内の元の場所よりも広い部屋に移転しています。バンチブックプロジェクトはクラウドファンディングで設定金額の800%以上の販売に成功。生産拠点や布主(

譲れないものを大切にする人生を-生きる指針を自分の内から導き出す「箱庭コーチング」【インタビュー記事】

 株式会社プロサポート代表取締役 吉野 賢 様のインタビューをさせていただきました。吉野様は、創業以来10年以上ホームページなし・営業なしの口コミや紹介のみで事業を発展して来られました。このたび新たなセッション「箱庭コーチング」の提供を開始されたばかりのタイミングでお話をうかがうことができました。この記事、言ってみれば吉野様にとって初めての営業活動と言えるのではないですか!? だから、インタビューするのも記事をまとめるのも震えました!   吉野様のお人柄と新しいセッションの

【エッセイ】 存在する。死しても。

 私が幼い頃、父は私を寝かしつけるため、即興で作ったお話を聞かせてくれた。布団に入った私の隣、床にごろんと寝そべり、片肘をついて、私に向かってぽつりぽつりと思いついたものから次々に口に出す。それは、私だけに与えられる父そのもの。私は、その時間が大好きだった。しかし、毎度しばらくすると、父はいびきをかいて寝てしまう。だからお話が最後までたどり着くことはなかった。父の声がふらふらし出すと、私は父の存在が薄れて行くようで不安になってくる。その内、片肘がかくんと崩れることもある。やが

【小説】きゅうりなんてと言わないで

 その夜、私たち夫婦はバンクーバーのフュージョン料理レストランにいた。私たちは、昼間に市内の教会で結婚式を挙げたばかりだ。挙式後のメモリアルディナーとして、多様民族都市にふさわしいこのレストランを選んだのだった。  内装は高級フレンチ風だった。スタッフにイスを引いてもらい席に着く。私は英語がよく分からない。夫がその店で一番注文されるというコース料理を選んでくれた。メニューをスタッフに返し、私はようやく一息ついた。挙式の日、花嫁の朝は早い。私は早朝から今まで、まともに食事をし

【小説】否定のない夢

僕は、多和田先生が、好きだ。    今日は、月に2回実施している多和田准教授の手技研究会の日である。先生は、鍼灸学科・東洋医学ユニットの中でも、東洋医学と西洋医学のバランスを重視し、35歳という若さで数多くの研究実績を挙げ、学生の人気も高い。学生の1人を患者役とし貴重な先生の手技が披露される。学生たちは、先生のわずかな動きさえ見逃すまいと、息を殺して見守っている。    僕は集団から少し離れて、先生の横顔を見ていた。マスクをつけているが、ゆるやかにウェーブがかかった前髪とすっ