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2022年6月3日

今日のココ日(ココルーム日記)
今朝、ひとりのオッチャンが開店と同時にやってきて、バザーにあったアンパンマンのポットを買った。
そしてカフェの入り口に並んでいる様々な人形たちに目を止める。
突然オッチャンは神妙な顔でボクたちに語り始めた。
「あのな、信じられんかもしれへんけど、ワシな、生きとる人形持ってるよ」
「え?」
「1メートル50センチくらいの人形やねんけど、廃材処理の仕事してる時に出てきてん。親方ぁ!コンベイヤー止めてくだせぇ!言うてもらってきたんや」
「はぁ…」
「最初の3年は動かんかったけどな、今年になってから目も口も動かせるようになったわ」
「へ〜!」
「タバコが好きでな、チョコも食べるで。酒も好きやなぁ。飲ませてやったら笑うんやで。今度見したろか?」
「いやぁ、持ってこれるんやったら見せて」
そのオッチャンはなんとも言えない表情でオッチャンの家にある生きている人形のことをひとしきり語ると、帰っていった。
夕方、ひとりのオッチャンがふらふらとお店に入ってくる。
CDを1枚買ったオッチャン、そのまま飾ってある人形たちに目を向けた。
「俺な、人形の声が聞こえるねん」
「えっ?」
「こうしてな、人形見てたらな、時々話しかけてきよるやつおんねん。夢に出てきて俺に買うてくれ〜言うて頼むやつもおったで」
「はぁ…」
「前にガラクタ市の前通ったらな、人形が積み重なっててな。いっちゃん下になってるのが気になったから店の人に掘り出させたら、案の定俺の夢に出てきたやつでな。それから20年一緒に暮らしてるわ」
「へ〜!」
「俺、人形に口づけして前の魂抜いてから新しく俺の魂入れたんねん。そしたら人形ニッコリ笑いよるで。俺そういう能力持ってるからな」
「そうなんやねぇ、俺にはそんな能力さっぱりないわ」
ボクは答える。
「アンタ能力もそやけど、商売っ気もさっぱりやな。俺さっきからこの人形ずっと見てるやん。つまり欲しいってことやんか」
「あっ、そうなん?!オッケー、ありがとう!」
ボクはお金を受け取り、ガラスケース入りの日本人形をオッチャンに手渡す。
オッチャンは他にも気になる物が色々あるらしく、「アカン、もう帰ろ。どんどん欲しなるわ」と呟いて帰っていった。
一日に二人も同じような人形を愛するオッチャンの話を聞いていささか面食らったボクはかなよさんにそのことを伝えた。
「釜ヶ崎ではそういうオッチャン珍しくないわよ。ワタシも以前、あるオッチャンに自分が死んだあと寂しいだろうからココルームで自分の人形を預かってほしいって頼まれてね。今から練習だって言ってここに人形だけお泊まりさせたこともあったな。その人形に詩を詠んで聞かせてくれって頼まれたりもしたしね」
今日聞いた話を信じてないわけじゃない。
ただただ、すごい話だなぁ、となんだか打ちのめされたような気分になったんだ。
(書いた人:テンギョー)


今日のココイチ(ココルームの一枚)
夜のまかないご飯のメニューをスタッフのふうゆちゃんが書き出していた。 「なんか素材の名前になっちゃってますね」 そう言ってふうゆちゃんは笑った。 それよりふうゆちゃんよ。 「ソ」って…何?


現在、ココルームはピンチに直面しています。ゲストハウスとカフェのふりをして、であいと表現の場を開いてきましたが、活動の経営基盤の宿泊業はほぼキャンセル。カフェのお客さんもぐんと減って95%の減収です。こえとことばとこころの部屋を開きつづけたい。お気持ち、サポートをお願いしています