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2022年7月16日

今日のココ日(ココルーム日記)
最近釜芸のバザーでは、僕たちが商品に付けた値札を他の商品に付いている安い値札と付け替えて、素知らぬ顔で欲しいものを安く買おうとする人が散見されるようになってきた。
お金を払おうとしてくれているだけまだ有り難いが、僕たちとしてはちょっと寂しい気分になってしまう。
ここは大阪で、お客さんたちに値切りの達人は多く、僕たちは彼らとのぶつかり稽古を通して、コミュニケーションの妙を日々学んでいる。
「まけてほしい」と言われたら、いつも頭ごなしに断るのではなく、それなりに考えて対応する(そもそも釜ヶ崎価格でかなり安く売ってはいるのだが)。
今日は、時々バザーに来てくれるおばちゃんが、気に入ったシャツがあるからまけてくれと僕に言ってきた。
それまでも何回かそのおばちゃんの値引き交渉を受け入れてきたし、今回もこの値段までなら、とその金額を言うと、おばちゃんはさらに安くしろと言った。
商品の質からしても、こちらが提案した金額が限界だと思った僕は、「それは無理。他の人が元々の値段で買ってくれるかもしれないし、その値段なら今日は売れない」と突っぱねた。
スタッフのゲンちゃんも「また日を改めて来てみて。その時まで売れ残ってたらまた話そう」とフォローを入れてくれた。
おばちゃんは僕を小突きながら、「いつもまけてくれてるのに!もう来ぇへんからなぁ!」と去っていった。
僕が苦笑いをしながらバザーの整理をしていると、すぐにおばちゃんが戻ってきてお店の中へと入っていく。
「代表の人と話すわ」
おばちゃんはそう言って、たまたま近くにいたかなよさんに話しかけた。
見ると何かを手渡しているようだ。
しばらくして店から出てきたおばちゃんは、僕にこう言った。
「あの人に私が作ったティッシュケースあげたよ。私あの人好きやねん。あのティッシュケース持ってると幸せになるよ」
おばちゃんは僕に軽くウィンクをして去っていく。
僕が「ありがとう、良い一日をね!」と言うと、おばちゃんは今度は笑顔で「また来るねぇ〜」と返事をした。
おばちゃんがなぜ急に戻ってきて、かなよさんに贈り物をしたのかは分からない。
もしかしたら、「もう来ぇへん!」と僕に言ったことを気にして、彼女なりの方法でこの場所との出会い直しを試みたのかもしれない。
さすがにそれは僕の考えすぎだろうか。
ともかく、釜芸のバザーは、お客さんにまけさせられても、要求を突っぱねても、別れ際は笑顔のオフサイド。
僕たちは、そうやってバザーのフリをしながら、毎日ここ釜ヶ崎で出会いと出会い直しの場を開いている。
だからこそ、バザーに来てくれる人たちには、安く買うために変な小細工しないで、僕たちと気楽に正直にぶつかり合ってみてください、と言いたい。
今日バザーの一員になったばかりの犬のような顔をした招き猫が言っている。
「まずは話してみにゃぁさいな」
(書いた人:テンギョー)

現在、ココルームはピンチに直面しています。ゲストハウスとカフェのふりをして、であいと表現の場を開いてきましたが、活動の経営基盤の宿泊業はほぼキャンセル。カフェのお客さんもぐんと減って95%の減収です。こえとことばとこころの部屋を開きつづけたい。お気持ち、サポートをお願いしています