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2022年3月14日

今日のココ日(ココルーム日記)
ハヤシさんが出てこない。
最初に味見をした時、「あ、ども。」とドアを開けて顔を出したのはタナカさんだった。
「あ、いえ、僕が会いたいのはハヤシさんなんです。」
そう言ってそっとドアを閉めた。
おかしい。
たしかにこの部屋だったはずだ。
僕は首を捻りながらコンソメを振って味見をする。
「こんばんは、サトウです!」
元気よくサトウさんがご挨拶。
「すみません、間違えました!」
そう言って僕も元気よくドアを閉める。
おかしい。
また別人だ。
ハヤシさんに会いたいのに会えない。
僕はうずうずしながらウスターソースを注ぎ込む。
味見。
「ちっすー、スズキだけどぉ。」
なんだかノリのいいスズキさん。
「あ、また今度…」
そう言ってすぐにドアを閉める。
少しため息が出た。
おかしい。
どうしてハヤシさんは出てきてくれないのだろう?
キッチンの棚を見渡す。
チラッと目に入るガラムマサラやターメリックの文字。
その魅惑のネーミングに思わず手を伸ばしたくなる。
いや待て自分!
そんなの入れたらクマールさんやシンさんがドアの向こうで踊りながら迎えてくれるだろうが、僕が今宵会いたいのはハヤシさんなんだ!
落ち着いて考えよう。
きっと出会える手段はあるはず。
僕はおもむろに冷蔵庫へ行き中を覗きこむ。
視線の先に、牛乳のとなりでハヤシさんに似た色味をしたやつが立ちんぼしている。
白いキャップのアイツだ。
そう、多分これ!
僕はケチャップを鷲掴んで鍋へと大股で向かう。
心はすでに高鳴り始めている。
フタを開け、ひと回し、ふた回し。
トロトロと鍋に注ぎ入れる。
ゆっくりかき回してから味見。
少ししてから、
「おぉ、遅かったやん。」
いつもの調子でハヤシさんがドアの向こうで笑っていた。
(書いた人:テンギョー)

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現在、ココルームはピンチに直面しています。ゲストハウスとカフェのふりをして、であいと表現の場を開いてきましたが、活動の経営基盤の宿泊業はほぼキャンセル。カフェのお客さんもぐんと減って95%の減収です。こえとことばとこころの部屋を開きつづけたい。お気持ち、サポートをお願いしています