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香り散歩

好きな香水を身に纏い、花の香りを楽しみながら散歩をすることが私の日課です。
 空が美しく澄み渡る春の朝には、鈴蘭の香り。新緑を感じる爽やかな香りに包まれると、心に可憐な鈴蘭が咲き、春風に揺れて心が躍ります。道端に野花のつぼみを見つけて嬉しくなり、暖かな春陽と鈴蘭の香りが融合して心が蕩ける...そんな贅沢な時間が幸せです。

 晴天に風が通り抜ける夏の昼には、茉莉花の香り。特に、茉莉花に柑橘類を溶け込ませた香水は、花の甘美な香りと柑橘の瑞々しい香りでうだるような暑さを吹き飛ばしてくれます。制汗剤がほのかに香る制服を腕まくりした高校生が、自転車で駆け抜けていく風景に青春を感じました。もし「青春」という言葉がない世界に生まれていたら、私は青春を「青夏」と表現したいけれど、しっくりこないなと思いました。青春を青い春と初めて表現した人は、心の解像度が素晴らしいなと思いました。

 橙色の空が広がる秋の夕方には金木犀の香り。街路の金木犀の邪魔にならないよう、控えめに甘くて芳しい金木犀の香水を身に纏います。見上げると、澄んだ秋空にオレンジ色の小さな星が咲いていて愛おしさを感じます。涙が頬をつたうとき、路面に落ちた金木犀の星屑たちが励ましてくれているようで心が救われます。春の桜のような穏やかな人、夏の向日葵のような笑顔が可愛い人、冬の椿のような凛とした人、どんな人も素敵だけれど、私は秋の金木犀のような、そっと心に寄り添える人になりたいと思いました。

 オリオン座が輝く冬の夜には、薔薇の香り。華やかで上品な薔薇の香りは冬の美しさを際立てます。冬の夜に降る雪は、無数の花びらが舞い散るようにみえます。「雪華」という日本語の美しさを実感しました。
 花の香りに包まれる日々を集めたら、人生は美し庭園になります。悲しい日に流した涙で土を耕し、日々感じる幸せを振り撒いて美しく育つ。そんな香り豊かな庭園をこれからも大切に慈しみます。

・この作品は、香大賞に応募したものです。落選してしまいましたが、自分なりにお気に入りのエッセイなので、読んでくれた人がいたなら嬉しいです。

四季の変化と、時間帯の変化を軸にして、香を織り交ぜたエッセイです。日本語ならではの美しい表現を大切にしました。


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