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中国の販促ライブストリーミングについて

アリババの創業者のJack Maは、主にビジネスマンとして知られています。しかし、2018年11月11日、すなわちアリババが開催した世界最大規模の販促イベントの日に、そのJack Maは経営者の服を抜ぎ、スマホのカメラの前に座り、アリババ自社のライブ配信アプリをONしに、「販促ライブストリーマー」に変身しました。それだけではなく、隣に座っている中国ナンバーワン販促ライブストリーマーとして知られているLi Jiaqiと対決しました。どちらがストーリーミング時間中により多くの口紅を売れるかという対決でした。結果としては、Jack Maは惨敗(ざんぱい)し、十個しか売れませんでした。Li Jiaqiは、最初の15分だけで15000個を売り、5時間のストーリーミング時間中に350万個の口紅を売りました。

Li Jiaqiとはどういう人物でしょうか。そもそも、販促ライブストリーマーとはどういう職業でしょうか。日本にはまだ普及していないので、知らなくても当然です。今回の記事は、まず販促ライブストリーマーが支えている販促ライブストリーミングという業界を説明します。その後、Li Jiaqiがどのようにして中国、いや、恐らく世界トップの販促ライブストリーマーになったかについて、話したいと思います。

販促ライブストリーミングはどのようにして生まれましたか

近年、スマホや4Gの普及により、ストリーマーと呼ばれているスマホでライブ配信をする人とスマホでライブ配信を視聴する人が大幅に増加してきました。日本でも、Showroomや17liveの様なサービスが続々と出現してきました。しかし、中国ほどライブストリーミングが流行している国は少ないのではないかという気がします。その一つの理由は、従来のテレビ局が政府に厳しくコントロールされ、コンテンツのバラエティを欠いているからだと思います。

大手Eコマース企業もそのライブストリーミングの流行に乗りました。中国EC最大手のAlibabaは2015年に、自社の「Taobao」というEコマースアプリにライブストリーミングボタンを追加しました。品物の販売者は、そのボタンを押すと、自分の携帯のフロントカメラが撮影した動画(多くの場合、自分の顔)を生放送で世界中に配信できました。もちろん、コミュニケーションの機能も充実しています。視聴者がコメント欄に質問を入力すれば、配信者が直ちにライブで回答できます。。

「Taobao」がEコマースアプリなので、配信者は主にものを売りたい販売者で、視聴者は主にものを探している消費者です。配信者はより自分が売る物の魅力をアピールするために、言葉巧みに紹介するだけではなく、自分で試用したり、時間限定のセールスを打ち出したりします。時々、販促と全く関係ないこと、例えば歌を歌ったり、一発芸を披露したりもします。ある意味、一種のショーにもなっています。視聴者の中には、買い物に主眼を置くより、配信者のパフォーマンスを楽しむためにライブストリーミングを見ている人もいます。実は、「投げ銭」的な機能もあり、ユーザーが自分の好きな配信者にバーチャルプレゼントをあげることもできます。

「Taobao」の販促ライブストリーミング機能が大成功し、アプリ経由での流通取引総額が大きく増えたと言われています。その成功を羨ましがり、中国の他の大手SNSアプリが相次いで自社の販促ライブストリーミング機能を出しました。TikTokやWeiboなどはアプリ内に販促ライブストリーミング機能を追加しました。因みに、TikTokもWeiboも膨大なユーザー数を抱える一方、自社のEコマースがありません。そのため、視聴者が配信を見ながら、商品を注文したら、基本外部のサイトに誘導されます。TikTokとWeiboが得られるのはアフィリエイト収入です。

販促ライブストリーミングは、既に中国Eコマースの大きな一部になっています。Deloitte社の調査によれば、2018年の中国販促ライブストリーミングの市場規模は5000億円ぐらいに達していたようです。Alibaba傘下の「Taobao」がいうまでもなくその市場でリーダーです。今のTaobaoには、5000人以上のストリーマーが毎日1.5万時間以上のライブストリーミングを配信しているらしいです。彼らの中には、芸能人並みの人気を博した人もいます。例えば、TaobaoのトップストリーマーのViyaという女性は8時間の配信で4300万人の視聴者を獲得したらしいです。そして、彼女よりもっと有名なのは、Li Jiaqiという口紅の販売に特化している男性ストリーマーです。そのLi Jiaqiが有名になったストーリーはある意味中国の販促ライブストリーミングの縮図だと思うので、これから紹介したいと思います。

Li Jiaqiとは

1992年に生まれたLi Jiaqiは2016年までにある中国のデパートでL’Orealというブランドの販売員を務めました。そこで並外れた努力で、どのように女性用の化粧品を紹介したら顧客の胸に刺さるかというスキルを磨き上げました。例えば、普通の店員が口紅の色を説明する時に、「赤」や「ピンク」などの言葉を使いましたが、Li Jiaqiは「心拍数を加速させる色」や「星のようにクリアな色」などの言葉を巧みに紡ぎました。

しかし、もしずっとデパートでの販売員として務めていたら、いくら頑張っていてもLi Jiaqiは今のような数千万人のファンを持つスターにはなれなかったでしょう。彼にとってのターニングポイントは2016年頃に流行し始めた販促ストリーミングでした。Li Jiaqiは2016年にTaobaoでデビューして、蓄えてきた化粧品の説明に関するスキル、カメラの前で魅力的に話す才能、そして人並み以上の努力で急速に人気が上がりました。デビューして一年で10万人のフォロワーを獲得し、2年後にアリババの創業者のJack Maとの販促ストリーミング対決を開催し、圧勝しました。今、Li JiaqiはTaobaoのみならず、TikTokなどでも自分のチャンネルを作り、ほぼ毎日何らかの配信をしています。彼は既に約5000万人のフォロワーを持つ中国ダントツナンバーワンの販促員になっています。

先ほど「人並み以上の努力」と言いました。よりその努力をより理解してもらうために、2つの角度で説明します。。まず、この仕事に関するリスクについてです。デパートなどで店員が口紅の効果を顧客に見せる時に、基本、どこかの紙に口紅で一つのラインを描きます。YouTubeなどで口紅を紹介する時にも、ほとんどのYouTuberもこの方法を使います。時々、自分の腕にラインを描く人もいます。しかし、Li Jiaqiは違います。彼はより実際の効果を視聴者に伝えるために、基本、全ての口紅を自分の唇に塗ります。ある日の5時間半続いた販促ストリーミングで、Li Jiaqiは300本以上の口紅を自分の唇に塗りました。最終的に達成した販売金額は6000万円を超えましたが、決して容易とは言えないと思います。私は周りの女性の友達に聞きましたが、5本の口紅を連続で塗ったり、落としたりすると、唇が乾燥し、痛くなり始めます。Li Jiaqiは300本も塗るのは、尋常ではありません。「毎回、販促ストリーミングが終わると、唇が麻痺したように何も感じられません」とある取材でLi Jiaqiは認めました。逸話ですが、Li Jiaqiは2019年に「30秒で最も口紅を塗る回数(4回)」というギネス世界記録を達成したらしいです。

二つ目は、その仕事の長さについてです。「ライブ配信者はフリーターだから、自由な時間が多いだろう」と私は思いました。しかし、調べてみたら、Li Jiaqiの勤務時間も非常に長いらしいです。1日のスケジュールはこの通りです。昼12時から17時の間にその日にストリーミングで販促する商品を選択し、チームと配信企画などの事前準備をします。19時に販促ストリーミングを開始します。翌朝の1時ぐらいに配信終了です。メイク落とし、片付け、内部評価会議などをして、実際に眠れるのは朝4時ぐらいになります。サラリーマンだったら、週末や休日などがありますが、Li Jiaqiにはそういう贅沢がないようです。ほぼ1日も欠かさずにストリーミングをしています。取材でLi Jiaqiは次のように話しました。「デパートでメイク販売員をしていた時、毎月6000元(10万円)しかもらえなかったが、今より凄く楽だった。18時に退社した後、友達とご飯を食べて、夜遅くまでカラオケをしたりしても大丈夫だった。ストリーミングを始めてから、普通の人の生活ができなくなりました。」

今ではLi Jiaqiのような販促ストリーマーは膨大な視聴者を抱えますが、実際の販売額はまだ従来の広告モデルと渡り合えるレベルではありません。ライブ配信を見て買い物をするという行動はまだ一部の若者が特定の商品、例えば口紅を買う時に限られています。今後、より主流の販促方法になれるかどうかは楽しみにしています。

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