見出し画像

本の要約 「チームHuaweiの仕事方式(中国語名:华为团队工作方式)」


初めに

最近、中国の大手IT企業Huawei(ファーウェイ)はアメリカの制裁対象になった件で、注目を浴びています。今回の記事はそのHuaweiの一面を取り上げて紹介したいと思います。具体的に、「チームHuaweiの仕事方式(中国語名:华为团队工作方式)」という本の要約です。その本では論理的なセオリーと実例を使い、Huaweiの人事マネジメント制度について語られています。著者の呉健国(以下呉さん)は、1996年にHuaweiに参画し、人事担当の役員として、Huaweiの人事制度の構築に重要な役割を果たした一人です。海外であまり知られていませんが、Huaweiは品質の高い製品を作るだけではなく、大量の優秀な人材も驚異的なスピードで育
てててきました。今、TencentやXiaomiなどの多くの中国大手IT企業の経営陣は実はHuawei出身です。この本は、まさにその秘訣を伝えようとしています。

著書は3つのパートで構成されています。人材を選択し、適材適所に配置すること、人材の成長を加速させること、そして人材のモティベーションをあげること。これからは、其々を解説していきます。


PART1

パート1は、人材を選択し、適材適所に配置する際の秘訣を説明しています。多くの人は、それを聞くと、すぐに頭に浮かぶのは、採用ではないでしょうか。Huaweiにとって、採用はもちろん重要ですが、人を正しく取り除くことも大事だと著者は主張しました。

まず、採用について見ていきましょう。著者によれば、多くの採用担当者は自分が正しく人材を採用できると思い込んでしまいます。しかし、実際のデータを見ると、半分以上の採用の判断は後日、間違っていると判明したらしいです。一番の原因は、面接官が自分の「第一印象の罠」に落ちてしまうからです。殆どの場合、面接官は、候補者と会った直後に良い印象を感じたら、面接で無意識的にその印象を証明できる証拠を必死に探そうとします。

Huaweiは、面接官の第一印象などの主観的な感情を排除するように工夫しています。候補者の能力を客観的に判断するために、各ポジションに求められる性格や能力を細かく文書化しています。それから、そういった素性や能力を聞き出す質問をリストアップし、面接官に渡します。面接官にそのリストにある質問を候補者にすることと回答を記録することが義務付けられているようです。それに加え、「どうすれば第一印象の罠に落ちないか」などのテクニックを教えるために、Huaweiは面接官として参加する全員に対して、定期的にトレーニングを行います。

ここで一点強調したいです。著書によれば、Huaweiが人を選ぶ時に、能力をもちろん重視していますが、それだけでは十分ではありません。候補者の人格や価値観が企業文化と合うかどうかも見極めています。その相性が一般的な会社でさえ重要ですが、Huaweiのような創業者がいまだに経営していて、独自の社風として知られている企業の場合、なおさら大事です。実は、Huaweiの歴史を振り返って見ますと、抜群の能力を持つ上級マネージャーが企業文化に噛み合わないために退職し、企業に大きな打撃を与えたケースが何回も発生しました。そのため、Huaweiは必死にそういった喧嘩別れを事前に防ごうとしています。従って、一見すると若干ファジーな企業文化との相性を、Huaweiは採用時にシステマティックにチェックします。要するに、Huaweiは人を採用する時に、いわゆるその人のハード面である能力とソフト面である価値観、両面とも真剣に評価します。

採用、すなわち「人材を取り入れること」について見てきました。企業の生命力をアップデートするために、不適切な人材を積極的に取り除く必要もあります。これからはこの部分を見ていきましょう。

Huaweiのような急速に成長してきた中国IT企業がよく直面する課題の一つは、創業メンバーが高いポジションにしがみ付くことです。彼らは、創業時の功績に満足し、能力を伸ばせず、企業と共に成長できなくなります。おまけに、彼らの収入の大半は給料ではなく、企業の株から得られるので、ボーナスなどの通常の手段でモティベーションを上げにくいです。しかし、そういった「古参たち」を解雇すると、人材の使い捨てのように見えます。一方、彼らを放っておくと、会社全員のやる気に悪影響を与えます。

著書によれば、Huaweiは解雇以外に、いくつかの「古参への対応方法」を用意しています。最も単純なのは、早期退職制度です。それと合わせ、退職したら何をするか迷う人たちに対して、顧問制度を設けています。実際のポジションから退く代わりに、裁量権のない顧問的なポジションを与えるということです。もう一つの方法は、関連会社を作り、そこに一部の社員を派遣することです。実際のケースを見ましょう。Huaweiは約20万人の従業員も雇うので、頻繁に社員旅行の需要があります。それで企業向けの旅行会社を立ち上げ、そこに本社で一部の社員を派遣しました。最後に、社内起業制度も充実しています。野心が高いものの、希望のポジションに何らかの理由で着けない社員に対して、起業してもらうという制度です。

上記の会社の外に出す方法に加え、Huaweiは会社内で「昇格と降格、両方ともできる」という制度を強く浸透させています。多くの日本企業にも降格制度がありますが、実施するケースが極めて少ないと言われています。それと違って、Huaweiでは、降格が誰にも普通に起こり得ることになっています。誰かが降格させられた後に、落ち込まずに頑張って、また昇格したケースも頻繁に発生しています。「下から上に行ける、上から下にも行ける」といった二方向人事が可能である企業文化によって、誰も「あるレベルの職についたら、もうぬくぬくやれば良い」と思わなくなります。

著書のパート1をまとめますと、Huaweiの人材配置の秘訣は、「入口」と「出口」を両方重視しているということです。

PART2

人材を適材適所に配置したら、万事完了するわけではありません。あくまでも第一歩にすぎません。社員は企業の成長と共に、成長することが非常に大事です。特にHuaweiのような急成長した企業は、過去の成功で役に立ったスキルや能力が新しい戦場で通用しなくなるケースがよくあります。その課題を解決するための人材の育成制度を、著書のパート2で説明しています。

Huaweiの人材育成制度には、「横軸」と「縦軸」、二つの部分で構成されています。

「縦軸」は、要するに、各レベルのマネージャーは、自分よりワンランク下の社員に研修を提供することです。「社員研修」という言葉を聞くと、中国でも日本でも普通に最初に頭に浮かんでくるのは、どこかの社外の先生をお招きして、自社の社員に対してレクチャーをしたりするというイメージでしょう。しかし、多くの場合、効果が少ないのではないかと疑問視されています。トレーニングを提供している先生が、社員が実際に毎日直面している課題が分からないまま、トレーニングを提供しても実用できる部分が多いはずはありません。結局、形式上の研修時間を満たすために、ダラダラ研修時間を過ごす人が多いでしょう。

Huaweiは社員研修を非常に重視するだけではなく、それを内部化しています。具体的に、役員を含め、全てのマネージャーや管理職に自分の部署の研修担当者になってもらい、部下たちに適切なスキルなどを教えてもらうという制度を構築してあります。もちろん、そこで使われている教材は、市場でよく見られるビジネススクールのケーススタディのような実際の業務と全く関係がないものではなく、実際の仕事で直面してきた課題ばかりです。そうすることで、Huaweiの各レベルの社員には、自分よりワンランク上の人から研修を受ける義務と、マネージャーの場合、自分よりワンランク下の人に研修を提供する義務が生まれます。正に完全に組織全体を貫き通す「縦軸の人材育成制度」です。

「縦軸」があったら、「横軸」ももちろんあります。Huaweiの「横軸人材育成制度」の意味は、パソコンのコピーペーストのように、あるランクもしくはポジションに適任の社員を大量に作り出すということです。著書には実際に起きたこと、すなわちHuaweiの海外進出をケーススタディとして取り上げています。

Huaweiは2000年代の初頭に、20か国で事業を展開していましたが、5年以内に180か国で事業を展開するという目標を立てました。どのようにそんなに短い期間でそんなに多くのカントリーマネージャーを含む駐在員を生み出せるかは当時のHuaweiが直面した難問でした。

その難問を解決するために、Huaweiの人事部はある制度を練り上げました。具体的には、三つのステップで構成されています。まず、世界の各地域で最も高い実績を達成したスタッフを本社に呼び戻し、自分の地域で直面してきた課題を洗い出してもらいました。その課題リストの8割はほぼ同じで、関税や労働法、それから政府関係などでした。次に、最も多く直面してきた課題をリストアップし、それらの解決策を厚いマニュアルにまとめました。最後に、そのマニュアルを使い、今後駐在させるスタッフにトレーニングをしました。トレーニングを担当するトレーナーはもちろん駐在経験を持つ社員でした。彼らは自身の経験を生かしながら、マニュアルにあるトピックを教えました。そのプロセスを通じて、Huaweiのスタッフが海外にいく前でも、実際に起こり得る課題を把握し、頭の中で既に理論上の対策を講じておくことができました。

海外進出はあくまでも一つの例にすぎません。Huaweiは似た方法を使って、他の横軸、つまり他のポジションや職においても、大量の同じスキルを持つスタッフを育成しました。その「人材コピペ」制度が功を奏して、今のHuaweiは中国インターネット業界の「専門学校」になっています。Huaweiの卒業生はBATを含め、多くの中国トップのインターネット企業に羽ばたいています。

パート2をまとめますと、Huaweiの人材育成制度には、「縦軸」と「横軸」二つの軸があります。「縦軸」は、各ランクの責任者が一つランク下のスタッフをトレーニングする制度です。「横軸」は、システマティックにあるポジションで使われる最も効率的研修をマニュアル化し、それを同じポジションの全員に教えるという制度です。

PART3

今までのパート1では、いかに正しい人材を選んで配置するかについて述べました。パート2では、そういった人材の能力を最大化するための研修や教育制度を説明しました。しかし、優秀な人材のモティベーションをどのようにあげるか、そして会社に留めるかは容易ではありません。人材流動が激しい中国インターネット業界はなおさらそうです。著書のパート3は、Huawei流の方法論を述べられています。

「Huaweiの社員モティベート方法」を聞くと、まず頭に浮かんでくるのはお金だと思います。実際も、Huaweiが大枚をはたいて優秀な人材を確保することは業界で有名になっています。しかし、多くの企業はHuaweiを真似して、同じもしくはより多くの給料を提供しましたが、なかなかHuaweiのような結果を得られませんでした。その理由はなぜでしょうか。著書はそれを解決するために、Huaweiのモティベート方法を「使命感的な部分」と「金銭的な部分」に分けて説明しています。

多くの企業はお金さえ出せば、使命感はどうでも良いと思い込んでいます。そうしたら、順番が間違うと著者は言っています。Huaweiは、第一歩として社員に企業の価値観や理念に共鳴を感じてもらい、深く同意してもらいます。それを達成してから、豊富な報酬を渡します。そうすると、社員にとって最も大事なのは、与えられたミッションを成し遂げることになり、そこから得られる報酬ではなくなります。もしその使命感とお金の順番を逆にしたら、社員はある意味「傭兵」になり、誰が多くもらったか、または少くもらったか、というようなことばかり重視してしまいます。

Huaweiがまだ中規模の時に、今のように業界の水準を凌ぐような給料を出しませんでした。それにも関わらず、多くの人材が集まりました。その理由は、正に使命感の効果です。著書の中、一つの例が上げられています。Huaweiが設立した当時、電気製品を販売する貿易会社でしたが、創業者の任さんはずっと自分の製品を作りたかったようです。ある日、電話交換機業界には大きなビジネスチャンスがあることに気づきました。しかし、当時、それを開発できる高度人材はHuaweiにいませんでした。その時、一人の従業員の紹介で、任さんは当時中国の名門清華大学で博士課程を勉強している郑宝用さん(以下、郑さん)という人と繋ぎました。学校を中退し、まだどこの馬の骨ともわからないHuaweiにジョインしてもらうのは難しいと思われましたが、それでも任さんは直ちに郑さんの所に訪れ、口説き落とそうとしました。任さんは、中国通信業界が直面していた問題を説明した後に、「あなたと一緒に偉大な事業を築きたいです。中国の国民ために、中国製の通信製品を作りませんか」と言いました。郑さんも胸が熱くなり、深く感動したそうです。その後、郑さんはHuaweiにジョインし、Huaweiの最初の自社開発の製品を作りました。もちろん、相当な報酬ももらいました。そのストーリーを通じて、見えたのは、使命感をメインに、お金を補助に、といった順番で人のモティベーションを上げるのはHuaweiのやり方です。

最後に

「Huaweiチームの仕事方式」という本の要約は以上です。簡単に復習しますと、この本は元Huaweiの人事担当の役員の吴建国さんが執筆したもので、3つの角度でHuaweiの人事管理について説明されています。一つ目は、人材の配置です。ここでの重要な点は、「入口」と「出口」を両方構築することです。二つ目は、人材を成長させるための研修です。ここでの重要な点は、「縦軸」で各レベルのマネージャーが自分の直下の社員にトレーニングを提供することと、「横軸」でシステマティックに経験を共有し、迅速に大量の人材を育てることです。三つ目は、人材のモティベーションを上げる際の方法論です。ここでの重要な点は、使命感とお金の正しい組合せです。


写真の出所:https://yuedu.163.com/source/0d57efbaa9c846bba2e7bb842398d34f_4



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?