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そんなものなのかもしれない。

『高校で辞めようと思ってたんですけど、なんだかうまく行っちゃって……』

 不意に聞こえてきたラジオからの声。
 一度でいいからこんなことを言ってみたい。

 ラジオから聞こえてきたのは、とあるバンドのメンバーの声。
 そのバンドは高校生の時に結成されて、コンテストで優勝したりしたので、当初は辞めようと思っていたのを変更して続けることになってメジャーデビューを経てラジオ出演をしていた。
 一言で言えば才能があるのだろう。

 ただボクはそれを聞いて思った。

 音楽って何を作りたいか目に見えているから誰かとやりやすいよなあ……。

 誰かと一緒に一つの目標に向けて切磋琢磨できるというのは楽しい。
 もちろん楽しいことばかりではないのはよく分かる。しかし一人で戦うよりも複数人で戦う方が良いに決まっている。
 藤子不二雄先生だってゆでたまご先生だって二人でやってる。
 そういえばCLAMP先生も複数人で書いてるって聞いたことある。

 ボクはそういうのがやりたかった。
 なんなら今でもそういうのに憧れる。
 お互いの物語に対する方向性をぶつけ合いながら、一つの良い作品を作っていく。
 こうやって書いているだけでなんだか嬉しくなってくる。

 高校を卒業する時に、友達に声をかけていたら人生は変わっていたのだろうか。

 一緒にやらないか……。

 いや、これは遊びで書いているものだから。
 地に足つけてちゃんとした仕事探した方がいいよ。
 そもそも小説書くために工業高校に来たわけじゃないだろ。

 そんな声が聞こえてくるようだ。
 確かに周りの友人たちもお遊びで小説を書いていても、誰も本気でそっちの道に進もうと本気で考えている奴はいなかった。

 小説を複数人で書くなんてできるわけがない。
 誰がどの役割で仕事すればいいかもわからないし、どうすれば商業ベースに載せられるのかも分からなかった。

 この役割というところだけど、音楽ははっきりしている。
 ベースとかギターとかキーボード、ドラム……
 はっきり役割がある。
 だから『一緒にやらないか』と言いやすいのだ。

 一つの物語を気の置けない友人たちと作り上げる。
 こんなに楽しいことはないだろう。
 もちろん、高校時代にそれをしてこなかったわけではないけど、バンドのようにちゃんと役割を決めて組織的にしたことはない。組織的にそれができていたなら、先がおぼろげながらも見えてくる。
 もし高校在学中にそこまでのことができていたらボクの人生は変わっていたかもしれない。

 ただ……

 なんとなく今ならできるような気がする。

 だけど今のボクにそんな思い切ったことはできない。
 こういうことはいい意味で怖いもの知らずの若者だからこそできるのだ。
 こう言ったら言い訳になるのかもしれないが……

 歳をとるというのは経験が身に着くかわりに、失敗を恐れ、あれこれと考え、結果、何もやらない。
 まあ、そもそもボクは若い頃からそうだった。
 実際に思い切って何かをやった時には失敗することもあったわけだから余計に何もやらなくなってしまう。

 実につまらない大人になってしまったものだ。

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