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先生はどのくらい死にそうなのか

 「先生死ぬかも」のハッシュタグを最近(2020/8/15時点)よく見かけます。これは8/14に内田良さんやたかまつななさん、斉藤ひでみさん方によるオンラインライブ配信内において呼びかけられたハッシュタグですが、以前にも何度かトレンド入りをすることがありました。このハッシュタグの意味するところは「教員忙しすぎて死にそうじゃ、助けてくれい」です。こんなハッシュタグが何度もトレンド入りするあたり、教員業界のブラックさがにじみ出ていますね。しかし学校で勤務している人以外にとって学校は完全なるブラックボックス、実際にどの程度忙しいかなど知る由もありません。
 そこで今回は、実際に教員がどの程度忙しいのか、その業務内容を私の実体験も踏まえつつ書いていこうと思います。


ー 目次 ー

① 勤務時間の実態
② 
実際の職務内容(中学・高校)
③ 
最大の重みを誇る業務、授業
④ その他雑務について



・勤務時間の実態

 以下のリンクは教員の勤務実態について調べたものです。週あたり勤務時間の分布について述べているP14を見ていただければ、勤務時間の実態がわかります。ただし、教員の労働時間は永らく管理がされていなかったこと、調査を行う企業や自治体によってある程度の乖離があることから、この調査データは一つの目安くらいに思ってください。

教員勤務実態調査

 まず前提として1か月=4週間とします。また労災認定において過労死と残業との因果関係を認定する基準となる過労死ラインは残業80時間です。P14のグラフを見ると小学校で33.4%中学校で57.7%の教諭が週当たり労働時間60時間を上回っており、過労死ラインを超えていることがわかります(週あたり約20時間の残業)。中学校に至っては資料中に「1週間当たりの学内総勤務時間について、中学校は60~65時間未満の者が占める割合が最も高い」と書かれています(週当たり勤務時間60時間から過労死ライン)。これが教員の勤務時間の実態です。さらにここでカウントされているのは校内勤務時間のみですので、持ち帰り業務を行っている教員も含めるとおそらく小学校でも週当たり勤務時間60時間を超える人の割合はもっと上昇するでしょう。


・実際の職務内容(中学・高校)

 ここでは、私の実際の職務内容を書いていきます。私の経験に基づくものですので、勤務している自治体や学校によって多少の違いがある点はご了承ください。

7:30 出勤(生徒の登校は8:00~なので、それより早く学校に来る)
8:00 朝礼
8:15~ 朝のHR(学活)、朝のテスト
8:55~ 授業
15:25~ 授業終了(ここまで休憩をとる時間は実質なし)
15:35~ 掃除
16:00~ 朝のテスト補習、部活動顧問
19:00 生徒最終下校
19:00~ 授業準備やテストの作成、事務作業開始
22:00 業務終了、帰宅

・朝礼では、その日の連絡事項を教頭等が全教員に通知。その後学年や部署ごとに小会議
・朝のHR(学活)では朝のテストに加え、連絡事項や出席確認、提出物の回収等を行う
・授業は一枠50分、一日平均4~5枠の授業(20枠/週)
・テストの補習はやりたくなかったのだが、教頭から「必ずやりなさい」とのご指示を頂きました。今にしてみればこれって残業指示だったし、録音しておけばよかったなあ。
・事務作業の内容は後述

 これがほぼ毎日です。自分でもなるべく業務時間を削るようにしていはいるのですが、まだこれが限界というのが現状です。無論、労働環境の良い学校に勤める知人はこれより健全な環境で働いていますし、もっとブラックな環境の知人もいます。また自治体によっても異なるので一概には言えませんが、以上が一つの労働環境の例です。


・最大の重みを誇る業務、授業

 先生といえば授業をする仕事です。この認識はおおよそ合っていて、教員としての主たる業務といえば授業です。そして、われわれの労働時間を無限に奪っていく重い業務でもあります。この授業という業務が大変である理由は色々ありますが、おおよそ以下の通りです。

・授業は週20枠(計16時間40分)
・授業準備は「休日」または「7:30~19:00以外の時間」くらいしかやる時間がない
・授業は学習指導要領という文科省のガイドラインに準拠する必要がある
・生徒の基本姿勢は「授業めんどくさい」

 まず、一人の教員が持つ授業数は10~30枠の間です。多くの教員は15~25枠くらいだと思います。週に20枠授業をするということは週労働時間40時間のうち16時間40分は授業をしている計算になります。さらに上述したように部活動顧問や朝のテスト補習などで一日3時間(週5日で15時間)とられるので、授業を行っている時間と合わせて週31時間40分の労働時間です。あと8時間20分働くともう週の正規労働時間を超えます。この8時間20分で一週間分の掃除や事務作業を終えたとしても(ほぼ100%終わりません)、さらに「16時間40分の授業を準備する時間」が必要です。これは学生・社会人等立場に関わらず理解していただけるかと思いますが、一週間で16時間40分ものプレゼンを考えるというのは並大抵の作業ではありません。プレゼンに縁のない人であれば1時間のプレゼンであってもかなりの重労働です。それを週に16時間40分も、しかも前述した週40時間分の業務に加えて準備をするわけです。この「授業準備」が尋常ならざる重みをもちます。
 授業といえば「金八先生」や「しくじり先生」など、TVメディアでも授業を行う人をよく見かけるため、「授業の準備って大変なの?」と思うかもしれません。しかし学校の授業には学習指導要領という、いわば「授業作りのガイドライン」があります。授業を作る上ではこのガイドラインに準拠した内容で、生徒に分かりやすいよう噛み砕いた説明で、入試にも対応できる内容で、聴いている生徒が退屈せず、かつ生徒の理解力に応じた学びが得られるような授業を考えなければなりません。さらに最近では「主体的・対話的で深い学び」「協調して問題を解決する能力を養う」というのも授業に求められており、これらを全て満たす授業など週10枠分作るだけでも40時間では足りません。

 授業というのが教員の主な仕事であるというのは間違いないのですが、現状では内容も高度化しているのに加えて授業に求められる要素も増えてきており、他の業務と並行して行うのには絶大な負担がかかる状況です。


・その他業務について

 教員の事務作業等もやはり多岐にわたります。
・職員会議
・学年会議
・生徒登校時の服装指導や、周辺の歩道での自転車乗車マナー指導
・いじめや問題行動などを起こした生徒の指導
・欠席や成績不良など懸念を抱える生徒の家庭連絡
・試験の作成、採点
・成績評価の計算、成績表の作成
・生徒の提出物等の集計、未提出者のピックアップや警告文書作成
・校内での連絡文書作成
・行事等の計画、運営
・業務を委託している業者との打ち合わせ
・保護者からの連絡対応
・朝のテスト採点、補習用教材の作成
・生徒からの質問対応
・iPadやアプリ等生徒が学習で使用するツールの研修会企画
・インターネットリテラシー等の研修
・修学旅行に関する打ち合わせ …………etc

 このように教員の事務作業は多岐にわたり、前述したように週8時間程度で終わるようなものではありません。さらにここへeポートフォリオという、いわば「新しい調査書」や(導入断念となりましたが)、入試センター新入試、あるいは小学校ならプログラミング教育や英語教育など新しいものを導入しようとするわけです。そりゃ先生も死にそうになるよ。



 雑駁ですが、以上が教員のおおよその実態です。結論として、先生はその半数くらいが死んでもおかしくないくらいの労働をしています(①での労働時間調査より、半数が過労死ラインを超えていることから)。先生死ぬかもというハッシュタグについて是非を問うような議論も巻き起こっていますが、現状そのくらい教員は追い詰められているというのは現場にいる私の感覚としても間違いない事実です。社会に少しでも教員の仕事内容が広まればいいな。


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