学び直しのための夜間学級

中学校の相談員の仕事で出会ったA君。学校にもほとんど来ない、来ても授業に参加しない、そんな生徒さんだった。




「たまにやる気を出して授業に出てみるんだけれど、先生の話が難しすぎてついていけない。自分は頭が悪いから勉強に向いていない」




A君がそう言うたびに、




「A君は頭が悪いわけではない。分かるところまで戻って、そこから100点を積み重ねながら、上へ上へとステージをクリアしていけばいい。そうすれば自分では無理と思っていた場所にもたどり着けるはず」




などなど励まし続けていた。




A君は、




「小4から授業を抜け出し、仲間たちとやんちゃしていた。あの辺から勉強が分からなくなった。小4に戻りたい」




とよく言っていた。




先生方にそのことを相談するも、




「ここは中学校なので小学校のドリルはない」


「高校受験を考えたら中一の基礎からやり直すしかない」




と。




高校進学には興味があるものの、中一の問題を解こうにも、小学校の基礎学力がないためか歯が立たないA君は、中卒として生きていく人生をシュミレーションし始めるようになった。




そんなある日A君から、




「これから先のことを考えるのがイヤになった。消えてしまいたいと思うことがある」




と打ち明けられ、どうしたらA君が未来に希望が持てるのかと頭を抱えたものだった。




結局A君は高校進学をあきらめ、中卒で働く道を選んだのだけれど、卒業を控えたA君に私はこう言った。




「勉強でなく他の分野で勝負する人生でもいい。ただ、自分は頭が悪いと決めつけないでほしい。高校には進学はしないことになったかもしれないが、これで勉強の道が閉ざされたわけではない。勉強の階段は一生登り続けることができる。小4に戻ってやり直すことだってできる。もしも戻りたくなったらまた勉強の階段に戻ってきてほしい」


と。




そして




「仕事をしながらでも学べる夜間学級というのがある」




と伝えると、


「え?そうなんですか」


と少し興味を持ってくれたような様子のA君。




一斉授業でどんどん進んでしまう教育システムが、最近ようやく見直されてきているようだけれど、それと同時に、勉強の階段を登り続けることをあきらめた人間に対して、「やり直せるよ」と門戸を開いたシステムがもう少し浸透するといいのにと思う。




社会人が学び直しをするための夜間学級。




進学のためでもなく、資格を取るためでもなく、もっといい仕事につくためでもなく、




ただ、




「できなかったことができるようになる」


「分からなかったことが分かるようになり、自分の世界が広がる」




そんな経験をする場所であってほしい。




できなかったことができるようになると、人は自信がつく。




自分は頭が悪いと思っていたA君にもっと自信を持ってほしかった。




受験のために学ぶのではなく、自分が成長するために学ぶ。




そんな純粋な学びの楽しさをA君に知ってほしかったと今でも思っています。

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