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【猫噺#27】蚊除けだったマタタビ

 猫にマタタビお女郎に小判、と言われる「マタタビ」です。
 最近、猫がマタタビを好む理由として、「蚊よけ」の効果のため、とする実験結果が発表されて注目を集めました。
 しかし、蚊を避けるための行動で、陶酔してしまう必要があるのか? など、まだ完全に納得のいく説明にはなっていないようです。
 そんなマタタビに関する話題を拾ってみました。

マタタビの花(PhotoACより)

マタタビとは?

「マタタビ科マタタビ属」のつる性の植物だ。
「木天蓼」と書き、夏がくると梅の花に似た白い小さな花を咲かせるため、夏梅とも言われる。

 マタタビには、人に対しても「血行促進」「疲労回復」効果が期待される成分をもつ。
 しかし、マタタビの名前は「マタタビ食べて、”また旅”に出る」から来ている、というのは俗説のようだ。
 アイヌ語のマタ(冬)、タムブ(亀の甲)で果実の形状を表した言葉が語源、という説がある。

 マタタビの開化前に子房にアブラムシが産卵すると、楕円形の正常な実ではなく、コブ状の「虫癭果(ちゅうえいか)」ができる。
 猫が好む成分は、虫癭果のほうに多いとされる。

 猫に粉末などを与えると、酔っ払ったような仕草をするが、なかには反応がうすい猫もいる。
 人間におけるドラッグを連想するのか、与えるのはよくないという人もいる。
 ドラッグは反応受容体に結合して離れにくいので、効果が持続して依存症になる。しかしマタタビの成分は、反応する箇所に結合して解離するため、効果は一過性だ。

 猫に対しては、ストレス解消、食欲増進、老化防止の効果がある。
 うちの猫ではWAONクンが逃げ出したとき、連れ戻すのに一役買ってくれたことがある。

マタタビ大好き(PhotoACより)

マタタビはなぜ効く

 マタタビの成分には、血流を上げる「マタタビオール」,蛋白分解酵素の「アクチニジン」や「ビタミンA,C」などがある。
 また揮発性のある「マタタビラクトン類(ネペタラクトール)」や「フェニルエチルアルコール」がある。

 猫には、鼻腔と上顎の間に第2の嗅覚器官である「ヤコブソン器官」があり、フェロモンのセンサーとなっている。
 オス猫が、メスのお尻のニオイを嗅ぐというセクハラを行い、変顔をするフレーメン反応は、ヤコブソン器官を働かせているのだ。

 猫のフェロモンとよく言われるが、実際は化学構造は同定されていない。
 しかし、マタタビ成分であるラクトン類は、猫の性ホルモンであるフェロモンのように働くようだ。

これからの季節注意しましょう(イラストACより)

マタタビに蚊除け効果があった

 米国科学振興協会(AAAS)が主催する ポスターコンテスト(2021年)で、最優秀賞に輝いたのが、岩手大学の修士課程だった女子学生の研究。
 それが、猫が反応するマタタビ成分に、蚊除け効果があったという結果だ。

 猫はマタタビ成分のなかで、ネペタラクトールに対してすりすり反応した。またその際、猫の脳内では快楽物質であるβ-エンドルフィンが亢進していた。

 ネペタラクトールは揮発し、マタタビと同じく蚊はネペタラクトールから遠ざかる。
 このネペタラクトールを塗った猫には、蚊が近寄らない。またマタタビに10分間酔いしれた猫にも、蚊は近寄らなかった。

 この女子学生、上野山怜子さんの研究発表は、天然有機化合物討論会でも奨励賞を受賞している。
 そのインタビューでは研究室に入ったとき、「ネコが大好きでマタタビ反応の謎を解く研究に挑戦したい」と語っていたそうだ。
 教授のほうは犬派らしく、なぜか五匹の犬との写真になっていた。

 ネコ科の動物は肉食で、茂みの中という蚊に刺されやすい場所に潜んで獲物を待つ。植物のニオイをつけるのは、獲物に自分のニオイを悟られないことと共に、蚊を寄せ付けない効果もあった。これが本能として組み込まれたのではないか、とのこと。

 また蚊のいない冬などにも反応することから、ネコが蚊を避ける、という自覚的な行為としてマタタビ反応をしているわけではないようだ。

スイカも好き?(イラストACより)

マタタビ以外にも!

 キウイフルーツの木や根にも同じ成分があって、猫がすりすりする。キウイには猫に害がある成分はないが、食物繊維や水分が多いので下痢をするかもしれないそうだ。

 イヌハッカと呼ばれるハーブも、ネペタラクトールを含んでおり猫が好む。キャットニップとも呼ばれて、猫のおもちゃにもなっている。

 こうしたマタタビ類は、猫の性フェロモンと似ているから陶酔する、とされる。しかし実利としての蚊除け効果と、どう絡んでくるのかは不明なところもある。
 蚊除けを体に擦りつけることで、陶酔するメリットはない。
 強引なことを言えば、発情している時期に蚊に刺されると胎児に悪影響があるため、フェロモンに蚊除け物質を兼任させた、ということだろうか?

 天王寺動物園(大阪市)と神戸市立王子動物園で、大型のネコ科動物であるジャガーやアムールヒョウ、シベリアオオヤマネコにネペタラクトールを与えると、マタタビ反応を起こすことがわかった。
 ネコ科動物にマタタビ反応を惹起するのが、ネペタラクトールであることと、イエネコ以外のネコ科動物も、この物質に反応することがわかった。

 犬にマタタビをあげても、猫のようなテンションでは喜ばないらしい。
 人に対しては滋養強壮効果があり、飲用・食用として利用されることもある。
 葉っぱを乾かし、お茶として飲むこともある。慢性的な疲労回復効果や免疫アップも期待できると言われている。
また、「実」を塩漬けや果実酒などとしても、薬効とともに味も楽しめる。

 身近で、よくわかっていると思われることに対して、深掘りしたい、という人が現れたら、それはもうわかりきったことだから。と言いたがるのが我々凡人の性(さが)。
 もちろん研究を行った方の熱意が大きかったのでしょうが、マタタビは性フェロモンだとわかっているんだから、と言わずに研究を推し進めるよう導いた、岩手大学の教授は優れた指導者だと思います。
 犬派なのに、猫研究をさせた懐の深さ故でしょうか。

(発表論文)”The characteristic response of domestic cats to plant iridoids allows them to gain chemical defense against mosquitoes” Science Advances(2021)VOL. 7, NO. 4 REIKO UENOYAMA et.al.

#猫 #マタタビ #虫癭果 #蚊除け効果 #フェロモン


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