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【科学夜話#4】生命の系譜は宇宙に繋がるか?

太陽系外からの侵入者「オウムアムア」

 2017年に発見されたオウムアムアは、人類が初めて遭遇する太陽系外から侵入した物体として話題になった。

 私自身は、これが太陽系外の物質を観測した初めての例、ときいて意外に思ったほど無知なので、詳しい解説は賢者に譲る。"note”にも素晴らしい記事がいくつかある。
 要するに、めっちゃ速くて独特の軌道で、ぴかぴか光るシリンダー形状をしていた。初物だらけだったらしい。
 自然物なのかエイリアンシップなのかの論争が起こるほど、厨弐ごころを刺激される物体だったわけだ。

 これはまた、映画「2001年宇宙の旅」の原作者(*1)でSF作家のアーサー・C・クラークが書いたハードSF「宇宙のランデブー」そっくりなシチュエーションでもあった。
 このストーリーをパクッた当該宇宙人は、当然訴追された。地球上の著作権が、太陽系外に及ぶのか法廷闘争のゆくえが注目される。

 もうひとつの興味ある視点は、今後のスペース・ガード(宇宙からの飛来物監視)で同様の物体が見つかったとき、ぜひサンプリングして確認してほしい事に関連する。

地球上のすべての生物は万世一系

 生物の体を構成するのはタンパク質。そのタンパク質は、アミノ酸が鎖状に連なったあと、折りたたまれてできている。
 また運動するためのエネルギーは、糖から作られる。
 アミノ酸、糖にはその立体的構造からL型とD型がある。

 アミノ酸を例にとれば、炭素を中心に四本の手があるが、その四つにすべて異なる分子が結合している(グリシンを除く)。
 その場合、分子式は全く同じだが、結合の仕方が異なる2つのタイプに分かれる。これらは鏡に写したように対称なので、光学異性体あるいは鏡像異性体(キラルな分子)と呼ばれる。
 なぜこのように、複数の異なる呼び方をするかというと、カッコいいからだ。

 まったく同じ原子からできているから、物理的性質の多くは同じ。
 しかし、水に溶かした場合の光のねじ曲げ方(旋光性)がちがう。また立体構造を区別する酵素反応も異なってくる。

 地球上のすべての生物は、わずかな微生物を除いてアミノ酸はL型、糖はD型を採用している。
 ここから、すべての地球生物はひとつの共通祖先から進化した、一系統の親戚筋と考えられるのだ。

 この前提を受け入れた場合、そもそもの初期段階で、アミノ酸にL型を採用したのは偶然なのか、それともL型でなければならない理由があったのだろうか? という疑問が湧く。

 それを知るには、生命の元になるアミノ酸が、どうやってできたか知る必要がある。
 1953年のユーレイとミラー、つまり幽霊と鏡という胡散臭いコンビが、原始大気への放電実験を行って、生命の元になる有機分子ができることを証明した。

 いっぽう、もっと胡散臭いイロ物として、宇宙から飛来した隕石に付着したアミノ酸が生命の元、という説もある。

 意外にも、近年では隕石由来説にも結構な支持がある。
 1969年にオーストラリアに落下したマーチソン隕石には、アミノ酸などの有機分子が発見され、その存在比は化学進化の実験例と類似していた。
 さらにアミノ酸はL型優位である。
 2022年には、探査機「はやぶさ2」が採取した小惑星りゅうぐうの砂から、23種類のアミノ酸が見つかっているので、その解析にも期待したい。

宇宙に由来するアミノ酸

 こうなると、我が厨弐ごころは宇宙に存在するアミノ酸がL型優位なので、地球生命はL型を採用したのだ、というストーリーを書きたくてうずうずしてくる。

 ここで問題は解決されたのではなく、先送りされた、ということになる。
 なぜ宇宙に存在するアミノ酸はL型優位なのか、ということだ。

 ふつうにL型、D型を作る化学反応を行うと、双方の物質が同量できる。
 これをラセミ体という(正確には、ラセミ混合物とはR体とS体とを等モル量混合したもの。簡略化だからツッコミどころは多い)。
 またR体とかS体という分類もある。なぜこう複雑にするかというと、カッコいいからだ。

 最初から鏡像異性体のどちらか一方のみを作るのを、不斉合成という。
 また混合物を作ってからどちらか一方を選択するのを、光学分割もしくはラセミ分割という。
 医薬品には光学異性体も多いので、この分野は研究が進んでいる。

 宇宙で生成するアミノ酸がL型優位なのは、赤外線円偏向のためだという研究がある。
 私自身は、太陽系の惑星が同じ平面上で、同じ向きにまわることにより発生するフィールド説を唱えているが、残念ながらここには詳しく記述するスペースがない。
 そのための時間もない。これからご近所のフェルマーさんと初詣に行くからだ。

鏡の国のアリスは実在する?

 太陽系外宇宙に存在するアミノ酸が、L型かどうか調べるため、最初に書いたように太陽系外の物体を調べて欲しい、と思う。
 また宇宙人に遭遇した人は、彼らを刺身にして食べてみて欲しい。
 美味しければL型アミノ酸、お腹を壊せば太陽系外にはD型生命体が存在する可能性がある。

 鏡像異性体は、もうひとつ魅力ある世界観へと導いてくれる。
 D型アミノ酸で体が構成されるパラレル・ワールド、鏡の世界だ。

 最近のライトノベルやコミックは、とりあえず異世界転生しないと話が始まらないが、鏡の世界に転生したアリスちゃんは、何かを口にしたとたん死んでしまうので話が進まない。
 あるいは、鏡の世界の食べ物を口に入れたとたんに、元の世界には帰れなくなるジブリ・ワールドかもしれない。

(*1)正確には映画「2001年・・・」の原作は、クラークのショートショート「前哨」であり、小説「2001年・・・」は同時進行したノベライズ。
 ショートショートでこれだけの傑作。さすがクラーク!

#サイエンス #鏡像異性体 #地球生命 #エッセイ



 

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