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クレンジングはいつすべき?帰宅後すぐにした方が良い理由

みなさん、クレンジングってどんなタイミングでされていますか?
『メイクや皮脂が酸化すると肌に悪い』
『肌荒れするから帰宅後すぐにクレンジングした方が良い』
こんな内容をどこかで目にしたことがあると思います。
が、ほとんどの人は入浴のついでの方が多いのではないでしょうか。

私も入浴時にクレンジングをするタイプなのですが、先日、新商品のクレンジングを使いながら、ふと疑問に思ってしまいました。
”帰宅後すぐに落とす人と落とさない人って肌に違いがあるのかしら...”
クレンジングの処方開発歴が一番長い私ですが、クレンジングで落とす対象物(メイクなど)のことは理解していても、それらが肌にどんな悪影響を与えるのか知らないなんて…!

今回は、(私の知的好奇心を満たすことも含め)クレンジングのタイミングに関するウワサにモノサシをあてていきます。


帰宅後すぐのクレンジングをすすめる理由

■インターネット・SNSでのウワサ

まず、インターネットやSNS上での情報やウワサを調査しました。
その結果、帰宅後すぐのクレンジングが最適であるという結論にしているものが多数でした。

また、その中でも

  • メイクや皮脂は肌の上で6~7時間で酸化する

  • メイクや皮脂が酸化すると『過酸化脂質』という物質に変化

  • 過酸化脂質』が肌に悪影響を与え、毛穴やくすみなどの肌トラブルへ

という流れが多く見受けられました。

もし、6~7時間で皮脂などが酸化するのであれば、帰宅後すぐにクレンジングをするのは必然ですよね。早速、この根拠について調べてみました。

■研究論文による根拠

実際に肌の上での過酸化脂質量の変化を確認している論文によると、自然光照射時間が増えるに従い過酸化脂質量が増加し、2hで1.9倍、4hで3.1倍、6hでは5.1倍になることが報告されています¹⁾。

図1:背における自然光照射時間と角層最外層における過酸化脂質量との関係
引用:角層中における過酸化脂質及び皮表脂質の分布と洗浄による除去¹⁾ Fig.4より転載

また、皮脂中に含まれる酸化しやすい不飽和脂肪酸の1つリノール酸に紫外線を照射し、過酸化脂質量を24時間確認した研究報告もあります²⁾。
同論文では、紫外線によって過酸化脂質が急速に増加することにも触れ、紫外線による酸化の影響を示唆しています。

図2:リノール酸のTBA値(※)変化
引用:過酸化脂質による皮膚障害とビタミンによる防止²⁾ 図1より転載
※TBA値:油脂や生体組織の過酸化状態の指標

以上の結果から、自然光に当たると2時間でも酸化がすでに始まっている可能性があるということがわかりました。が、肌の上で6~7時間で皮脂が酸化するという時間的根拠は見つけられませんでした。

【急募】
 6~7時間で皮脂が酸化する根拠をご存じの方がいらっしゃいましたら、
 コメントお待ちしておりますm(__)m

さて、ここからは悪者である過酸化脂質について、皮膚科学的にはどんな影響があるのかを整理していきます。

過酸化脂質が皮膚に与える影響

リノール酸を過酸化脂質化させ、健康成人の上腕内側に24時間閉塞貼布した研究結果からは、肉眼的、組織学的に強い炎症症状を起こすことが報告されています³⁾。
また、別の論文では、同様にリノール酸に紫外線を照射し、過酸化脂質を多量に生成した物質を健康人の上腕内側に24時間貼布し、強い炎症症状と色素沈着を来たすことを確認しています⁴⁾。

これらの報告から、健康な肌であっても過酸化脂質が皮膚上に過剰にある状態はトラブルの基になることが容易に推測できます。

また、別の研究では、健康者とアトピー性皮膚炎の過酸化脂質量を経時的に観察し、以下の2点が報告されています³⁾。

  • 健康者は、6日後においても総脂質量に対して過酸化脂質量の変化がほとんど認められない

  • アトピー性皮膚炎では、総脂質量に対して過酸化脂質量が特異的に上昇

上記の結果を踏まえ、論文中では健康者においては一度生成された過酸化脂質が速やかに分解され、過酸化脂質の異常な上昇が起こらないように過酸化脂質調整能が働いていることを推測しています。

つまり、アトピー性皮膚炎などの皮膚にトラブルが起こっている状態では、特に表皮における肌を正常に保つ能力(抗酸化能や過酸化脂質分解調整能)が低下しているため、健康な肌よりも、過酸化脂質による炎症状態を作りやすいと考えます。

今回のまとめ

  • メイクや皮脂は肌の上で6~7時間で酸化するという根拠はない

  • ただし、自然光に当たると2時間後には過酸化脂質量が約2倍になる

  • 過酸化脂質は、強い炎症症状と色素沈着を起こすきっかけとなる

  • 特に、肌状態が悪い場合は、過酸化脂質の影響を取り除くために帰宅後すぐのクレンジングがおススメ

今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
日々の美容行動について、ふと疑問をもってもらうきっかけになっていれば嬉しいです。

(執筆:甲斐)

参考文献)
1.遠藤 正行, 鷺谷 広道, 真知田 宏, 角層中における過酸化脂質及び皮表脂質の分布と洗浄による除去, 油化学, 40, 5, 422-426(1991)
2.田中隆義,過酸化脂質による皮膚障害とビタミン による防止,ビタミン, 53, 577-586(1979)
3.早川律子, 皮脂の過酸化, 香粧会誌, 2, 6-12(1978)
4.井沢洋平, 早川律子, 青山久, Tokyo Tanabe Quarterly, 8, 55 (1968)