見出し画像

その成分解析、本当に正しい?パッケージ裏の全成分表からわかること

皆さんは化粧品を購入するときに、パッケージ裏などに書かれている全成分表を確認することはありますか?

SNSや口コミサイトなどで成分解析をしている方はたくさんいますが、中には正しい全成分表示のルールを理解しないまま、間違った情報を発信している方もよく見かけます。

例えば「印象の悪い成分をわかりにくい名前に変えて隠そうとしている!あやしい!」という投稿を見たことがありますが、化粧品や薬用化粧品の成分表示のルールは法律で決まっていて、メーカーが勝手に変えることはできません。(間違った成分名が記載されていたら商品回収になるので大問題です…)それでも時に同じ成分でも違う名前で表示されることがあります。それはなぜなのでしょうか?

今回の記事では化粧品や医薬部外品(薬用化粧品)の成分表示のルールを詳しく解説します。
少しマニアックな内容かもしれませんが、成分解析が好きで化粧品選びの参考にしている方自分でも成分解析をしてみたいと思っている方は、ルールをしっかり理解して、正しい情報を見極められるようになってくださいね!


化粧品の成分表示ルール

化粧品の全成分表示は薬機法*で義務付けられており、以下のルールで表示されます¹⁾²⁾。

①原則として「化粧品の成分表示名称リスト」の成分名を使用する。
②成分名は配合量の多い順に記載する。ただし、1%以下の成分は順不同(好きな順番)で記載できる。
③キャリーオーバー成分は表示しなくてもいい。
④着色剤は、着色剤以外のすべての成分の後に順不同で記載できる。
⑤香料は、複数の成分をまとめて「香料」として記載できる。

化粧品の全成分表示記載のガイドライン」から一部抜粋

*「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称・薬機法)

それぞれの項目について、詳しく解説します。

①原則として「化粧品の成分表示名称リスト」の成分名を使用する。
化粧品の表示名称は、原則として日本化粧品工業会(化粧品の業界団体)が作成した化粧品の成分表示名称リスト」に収載されている表示名称を使用しなければならないというルールがあります。
(表示名称リストに載っていない成分を配合する場合は、名称の作成を化粧品工業会に依頼し、申請中は暫定的にガイドラインに沿って作成した成分名を使うことができます。)

②成分名は配合量の多い順に記載する。ただし、1%以下の成分は順不同(好きな順番)で記載できる。
「成分名は配合量の多い順に記載する」
というルールは聞いたことがある方も多いかもしれませんが、1%以下の成分はメーカーが記載したい順番で記載できます
どこからが1%以下なのかは成分表を見ただけでは判断できませんが、1%以下の成分の中では植物エキスなどのイメージが良い成分が上の方に表示される場合が多いため、「〇〇エキス」などの美容成分が並び始めたら1%以下のゾーンである可能性が高いです。(ただし、エキスを高配合している製品もあるので一概には言えません。)

③キャリーオーバー成分は表示しなくてもいい。
キャリーオーバー成分とは、エキスの安定化剤や不純物など、配合されている原料に付随する成分で、製品中には効果を発揮しないごく微量しか含まれないものをさします。このような成分は、製品や人体には影響を与えないと考えられるため記載する義務はありません。

④着色剤は、着色剤以外のすべての成分の後に順不同で記載できる。
着色剤には製品に色を付けるための成分だけでなく、ファンデーションなどの色味を決める成分も含まれます。着色剤は原料の色ブレなどによって、製造ロットごとに微調整する場合があり、配合量が前後する可能性があるため、順不同で最後に記載できます。

⑤香料は、複数の成分をまとめて「香料」として記載できる。
製品の香りは数種から数十種類の香料を組み合わせて作られる場合が多いため、すべて表示するのが難しい場合は「香料」とまとめて記載することができます。香料と書かれていると人工香料と判断される方もいますが、様々な天然香料を混ぜたもので香り付けしている場合も「香料」と記載されます。

医薬部外品(薬用化粧品)の成分表示ルール

化粧品の全成分表示は薬機法で定められた義務であるのに対して、医薬部外品の全成分表示には法的な義務はありません⁵⁾。

医薬部外品で法的に表示が義務付けられているのは薬機法に基づいて指定された表示指定成分のみ。表示指定成分とは、パラベンやタール色素など使う人の体質によってごくまれにアレルギー等の肌トラブルを起こす可能性があるとして、商品への表示を義務づけられた成分です⁶⁾。(参照:名称を記載しなければならないものとして厚生労働大臣の指定する医薬部外品及び化粧品の成分,厚生労働省

ただし、化粧品の業界団体である化粧品工業連合会(現・化粧品工業会)が2006年に薬用化粧品についても原則として全成分を表示するという自主基準⁷⁾を定めたことにより、多くの薬用化粧品で全成分が表示されています。

医薬部外品(薬用化粧品)の全成分は、「医薬部外品の成分表示に係る日本化粧品工業連合会の基本方針」に基づいて、以下のルールで表示されます⁷⁾。

①原則として、医薬部外品の承認書に記載された全成分を表示する。
②企業秘密成分については、企業の判断で成分名を表示しないことが可能。
③成分は「有効成分」と「その他の成分」の2グループに分けて表示する。
④「有効成分」は承認書の記載順で表示する。
⑤「その他の成分」の記載順は企業の判断(順不同)とする。
⑥承認書の配合目的が「pH調整剤」で、表示指定成分以外の成分は、まとめて「pH調整剤」と表示できる。
⑦承認書の配合目的が「粘度調整剤」で、表示指定成分以外の成分は、まとめて「粘度調整剤」と表示できる。
⑧キャリーオーバー成分は、表示指定成分であっても表示しなくてもいい。

医薬部外品の成分表示に係る日本化粧品工業連合会の基本方針」から一部抜粋

それぞれの項目について、詳しく解説します。

①原則として、医薬部外品の承認書に記載された全成分を表示する。
原則として、厚生労働省および都道府県が承認した医薬部外品の承認書をもとに、承認書に記載された成分名を表示します。ただし、企業の判断によって日本化粧品工業会が作成した「医薬部外品の成分表示名称リスト」の別名・簡略名を表示することができます。

②企業秘密成分については、企業の判断で成分名を表示しないことが可能。
この場合、表示されている成分以外にも成分が配合されているということがわかるように「他n成分(nは表示されていない成分の数)」と表示します。

③成分は「有効成分」と「その他の成分」の2グループに分けて表示する。
有効成分とは、その医薬部外品の承認書に記載された効能・効果を発揮する成分のこと。
その他の成分は添加物として扱われるため、分けて記載します。

④「有効成分」は承認書の記載順で表示する。
有効成分が複数ある場合には、医薬部外品の承認書に記載されている順番で表示します。

⑤「その他の成分」の記載順は企業の判断(順不同)とする。
有効成分以外の成分は、1%以上であっても化粧品のように配合量順に記載する必要はなく、順不同で記載できます。

⑥⑦表示指定成分以外の「pH調整剤」と「粘度調整剤」はまとめて表示できる。

⑧キャリーオーバー成分は、表示指定成分であっても表示しなくてもいい。
⑧は化粧品と同様のルールで、配合されている成分に付随して製品中にはごく微量しか含まれないキャリーオーバー成分については、表示指定成分であっても、表示する必要はありません。

まとめ:化粧品と医薬部外品の成分表示ルールの3つの違い

以上をまとめると、化粧品と医薬部外品の成分表示ルールの大きな違いは3つ。

①化粧品の全成分表示は薬機法で定められた義務であるのに対して、医薬部外品の全成分表示は化粧品業界の自主基準に基づく任意表示である

②化粧品の全成分表示は1%以上の成分については配合量順に記載するが、医薬部外品の全成分表示は「有効成分」と「その他の成分」に分けて記載し、配合量順に記載する必要はない

③化粧品の表示名称と医薬部外品の表示名称は同じ成分でも異なることがある

化粧品の全成分表示は薬機法で義務付けられており、原則として日本化粧品工業会が作成する「化粧品の成分表示名称リスト」を用いて記載するとされています。
一方、医薬部外品の全成分表示は、日本化粧品工業会の自主基準として行われており、原則として、厚生労働省に薬事申請した名称で表示することとされています。
表示名称として使用する成分名のリストがそれぞれ異なるため、同じ成分でも化粧品と医薬部外品で異なる表示名称になることがあります。

例えば、防腐剤としてよく使用される「メチルパラベン」は、化粧品表示名称は「メチルパラベン」ですが、医薬部外品の表示名称は「パラオキシ安息香酸メチル」です。
さらに医薬部外品には日本化粧品工業会が作成した「医薬部外品の成分表示名称リスト」の別名・簡略名を表示することもできるため、「メチルパラベン」や「パラベン」と表示することも可能です。

記事の冒頭でお話ししたように、同じ成分でも別の名前で表示される場合があるのはこのためです。(決して難しい成分名にして隠そうとしているわけではないんですよ。)

化粧品と医薬部外品で成分表示のルールが違うのはなぜ?

2001年3月までは、すべての化粧品の製造に対して厚生省(現・厚生労働省)の承認が必要であり、化粧品の成分表示ルールは薬事法(現・薬機法)で定められた表示指定成分のみを記載すればよいというものでした。

その後、2001年4月の薬事法改正で化粧品の製造に対する承認が不要となったかわりに化粧品に配合されている全ての成分名を容器またはパッケージに表示することが義務づけられました。

全成分表示が義務化された理由として、表示指定成分以外の成分でも人によっては肌トラブルを起こす可能性があることから、消費者が自分の肌に合わない成分を避けられるようにするという意義があります。

医薬部外品に関しては、2001年4月の薬事法改正後も厚生労働省および都道府県の承認が必要であり、製品の品質・有効性・安全性などの一定の基準をクリアしていることから、全成分表示は義務化されませんでした。

しかし、消費者が自分の肌に合わない成分を避けられるようにするという全成分表示の意義は、国や都道府県によって承認された医薬部外品であっても変わらないため、化粧品の業界団体である化粧品工業連合会(現・化粧品工業会)が2006年に薬用化粧品についても原則として全成分を表示するという自主基準⁷⁾を定めました。

このような背景で、化粧品の全成分表示と医薬部外品の全成分表示の違いが生まれたのです。

パッケージ裏の全成分表からわかること

今回の記事では化粧品や医薬部外品(薬用化粧品)の成分表示のルールについて解説しました。

SNSなどで全成分表をもとに成分解析をされている方はたくさんいますが、化粧品の全成分表からわかることは、配合されているすべての成分の名称と1%以上の成分の配合順だけ。医薬部外品に関しては成分名しかわかりません。

料理に例えると、材料の名前がざっと並んでいるだけで、調味料の配合量も作り方も何もわからない材料リストのようなもの。そんな材料リストだけを見て料理の出来上がりや味を正確に判断できるでしょうか?

そもそも分析機器を用いて成分の割合を検出しなければ本来の意味の「成分解析」とは言えません。SNSなどで一般的に「成分解析」といわれているものは「成分解説」という方が正しいかもしれません。

化粧品の成分表を見て処方や作用を予想するのも一つの楽しみ方ですが、成分表のルールをしっかり理解して、正しい情報を見極めてください。
そして、化粧品の処方には全成分表示だけでは語れない奥深さがある!ということも心に留めておいていただけたら嬉しいです。

「成分解析」に興味がある方は、ぜひこちらの記事も読んでみてください。

今回の記事に関連して「化粧品より医薬部外品の方が効果があるって本当?」という疑問に関する記事も執筆中です!
皆さんも、美容にまつわる気になるウワサや、取り上げてほしい美容情報があれば、ぜひコメントで教えてくださいね♪

(執筆:なな)

【参考文献】
1)日本化粧品工業会(旧 日本化粧品工業連合会)「化粧品の全成分表示記載のガイドライン(改訂)
2)厚生労働省医薬局『化粧品の全成分表示の表示方法等について』(医薬審発第163号/医薬監麻発第220号/平成13年3月6日)
3)化粧品の全成分表示ルールの解説,化粧品成分オンライン,2024年6月17日アクセス
4)医薬部外品の成分表示ルールの解説,化粧品成分オンライン,2024年6月17日アクセス
5)平成12年9月29日医薬発第九九〇号
6)名称を記載しなければならない医薬部外品の成分,厚生労働省
7)日本化粧品工業会(旧 日本化粧品工業連合会)「医薬部外品の成分表示に係る日本化粧品工業連合会の基本方針