京のうつくし図鑑-12《歌舞伎・発祥の町》
京都の冬は、通称の「顔見世」で幕を開ける。12月は京文化においてことさら深い意味がある。年の瀬には新年を迎える準備が本格化し、街中が賑わいと活気に包まれる。商業も文化も一段と華やかさを増す中、「顔見世興行」はこの年末の雰囲気に調和し、京都の魅力を匂わせる。それを掻き立てるのが、南座の入り口を彩る「まねき」。役者の名前がずらりと勘亭流で書かれた看板だ。まねきを立てる光景は、毎年ニュースに競って報道される、京都の冬を象徴する瞬間なのだ。「顔見世興行」が持つ美しさは、その形式美と儀式性にある。役者のお披露目という伝統的な役割を果たしながら、共有される時間や空間には、京都特有の雅やかな美学が宿る。現代においてもその香りはさらに濃厚に漂い、京都の冬の風物詩として欠かせない存在であり続けている。顔見世の灯りがともるとき、京都の冬は本格的に始まるのである。
斬新で風変りが新しい、阿国歌舞伎が京の心をわしづかみ
出雲阿国が1603年(慶長8年)の春、庶民が自由に芸能や見世物を楽しんだ京都の四条河原で「かぶき踊り」を披露した。阿国は男装して独自のスタイルで舞い踊り、当時の人々の目を釘付けにした。その斬新で風変わりな踊りが「傾く(かぶく)」と形容され、やがて「歌舞伎」という言葉と芸能の基礎となったのである。いつの時代も新しいものが大好きだった京都の人たち。こうして歌舞伎は京都に根づき、やがて歌舞伎発祥の地へと進化していった。
南座に根づいた阿国スピリッツ、芸能文化の豊かさ
出雲阿国が芸能の歴史に名を刻んだこの土地で、400年以上にわたり歌舞伎が受け継がれ、今もその伝統が息づいているのである。南座は単なる劇場を超え、歌舞伎の始まりを物語る象徴的な存在であり、出雲阿国の革新的な精神と芸能文化の豊かさを感じさせる場所なのである。
オペラの蝶々夫人が歌舞伎に、京都の大好物、新しい演出
今年の南座「顔見世興行」では、年の締めくくりにふさわしい多彩な演目が揃っている。昼の部は、オペラを題材にした新作歌舞伎『蝶々夫人』で幕を開ける。続いて、七五調の名せりふが印象的な『三人吉三巴白浪』、南座初の五変化舞踊『大津絵道成寺』、夫婦の愛を情感豊かに描いた『ぢいさんばあさん』が上演される。
夜の部は、片岡仁左衛門が13年ぶりに大石内蔵助を演じる『元禄忠臣蔵』「仙石屋敷」で始まる。さらに、清元の舞踊劇『色彩間苅豆』「かさね」では美しさと恐ろしさが交錯するドラマが展開する。また、男伊達の粋を描いた『曽我綉俠御所染』「御所五郎蔵」、旅芸人の哀愁を軽妙に表現した舞踊『越後獅子』で締めくくられる。
伝統的な歌舞伎のよさを生かしながら、出雲の阿国が生み出した斬新で風変りな「傾く」を大絶賛した発祥の地、京都でのリリカルな受け入れかたを配慮した立体的な演出である。いずれも歌舞伎の多様な魅力を堪能できる演目。新たな年を迎えるための、はんなりと京風に心を豊かにする舞台である。
もう1つの風物詩、華やかな舞妓はん、芸妓はんが顔見世の鑑賞
「花街総見」は、京都の舞妓や芸妓がみずからの芸を高めるため、東西の人気歌舞伎俳優が出演する南座の「顔見世興行」を 鑑賞する。京都を飾るもう1つの年末の風物詩として京のみなさんにはなじみの光景。絢爛豪華な着物姿の舞妓や芸妓が観客席にずらりと並び、会場はひときわ華やかに彩られる。京都にある5つの花街が日替わりで鑑賞するのも、また京都の華やかな行事として観光客の目を楽しませている。
歌舞伎の発祥地、京都の南座は歌舞伎の殿堂に進化した
南座は、1610年に初めて建てられた初期の南座は、出雲阿国が「かぶき踊り」を披露した場所に近く、庶民の娯楽の地、芝居町として発展。いつしか歌舞伎発祥の地として400年の間、深い歴史を誇ってきた。その後、時代の変遷とともに改修を繰り返した。とりわけ19世紀末から20世紀初頭にかけての改修や、1966年と2020年の改修により、伝統的な美意識を残しながら観客席や舞台設備が現代的に改善され、歌舞伎の魅力を最大限に引き出す空間が整備された。南座の進化は、伝統を守りつつ、時代に合わせた革新を取り入れてきた結果、「歌舞伎の殿堂」としての存在感を強く漂わせている。